僕が愛したすべての君へ/君を愛したひとりの僕へ

並行世界の愛の物語：『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』の世界

乙野四方字氏による小説『僕が愛したすべての君へ』（略称：僕愛）と『君を愛したひとりの僕へ』（略称：君愛）は、並行世界という斬新な設定で描かれる、一人の男性の生涯と、そこで彼が出会う複数の女性たちとの愛の物語です。2016年の書籍刊行後、2022年にはスピンオフ作品『僕が君の名前を呼ぶから』の出版、そして両作品を原作とした劇場アニメの同時公開という形で、大きな話題を呼びました。

物語の舞台：並行世界と虚質科学

この物語の世界では、並行世界の存在が科学的に証明されており、「虚質科学」という学問が確立しています。虚質空間、パラレルシフト、IP（Imaginary Elements Print）といった独自の概念が用いられ、物語に深みを与えています。

主人公の暦は、7歳の時に両親が離婚。どちらの親と暮らすかという選択が、彼のその後の人生を大きく変える転換点となります。『僕愛』では母親、『君愛』では父親と暮らすことになり、それぞれ異なる人生を歩むことになります。

『僕愛』：高校時代の出会いから始まる恋

母親と暮らすことになった暦（高崎暦）は、地元の進学校に進学。そこでクラスメイトの瀧川和音と出会います。和音は、異なる並行世界から来たことを暦に告げ、二人の関係は、並行世界という壮大な舞台の上で展開していきます。大学卒業後、二人は共に虚質科学研究所に入所し、そこで研究者として、そして恋人として、共に未来を歩んでいきます。

『君愛』：幼馴染との複雑な関係

一方、『君愛』では、父親と暮らすことになった暦（日高暦）は、父親が勤める虚質科学研究所の託児施設で、佐藤栞という幼馴染と出会います。二人はすぐに親しくなり、いつも一緒にいるのが当たり前になります。しかし、栞の母親と暦の父親の再婚話によって、二人の関係は思わぬ方向へと進んでいきます。研究所の研究員となった暦は、栞を巡る様々な出来事を経験し、高校を中退することにもなります。

登場人物：それぞれの並行世界での人生

暦、和音、栞といった主要人物は、それぞれの並行世界で異なる人生を歩み、異なる関係性を築いています。例えば、栞は『僕愛』では登場せず、『君愛』では重要な役割を担っています。同じ人物でも、その生い立ちや他の人物との関係性は、並行世界によって大きく変化しています。

大分県を舞台にした物語

作者の乙野四方字氏が大分県出身であることから、物語の舞台は、大分市となっています。物語には、実在する地名や施設が登場し、読者に親近感を与えています。昭和通り交差点や、その脇に立つ少女の銅像「レオタードの女」などは、物語の象徴的な場所として描かれています。

アニメ映画化

2022年10月7日には、『僕愛』と『君愛』の両作品が劇場アニメとして同時公開されました。異なる制作会社によって制作された二つのアニメは、鑑賞順序によって異なる印象を与えるとされ、話題を集めました。豪華声優陣による演技も、作品の魅力を高めています。

まとめ

『僕愛』と『君愛』は、並行世界という壮大な設定と、緻密に描かれた登場人物たちのドラマ、そして独自の科学概念によって彩られた、奥深い物語です。それぞれの並行世界で展開する異なる物語、そしてその中で紡がれる愛の形は、読者や視聴者に、人生における選択と、その結果として訪れる運命、そして愛の多様性について考えさせる、多くの示唆に富む作品と言えるでしょう。

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