優しい脅迫者

西村京太郎『優しい脅迫者』解説

『優しい脅迫者』は、西村京太郎氏が1969年に発表した短編小説であり、後にエラリー・クイーン編纂の『日本傑作推理12選』にも収録され、海外でも翻訳・紹介された作品です。

あらすじ

物語は、理容店を営む野村晋吉の日常が、見知らぬ男、五十嵐好三郎の来店によって一変するところから始まります。かつて幼稚園児を轢き逃げした過去を持つ晋吉は、その秘密を握られたことで、五十嵐から巧妙な脅迫を受けるようになります。

五十嵐は、顔剃りの代金を借用書という形で受け取り、その金額を徐々に釣り上げていきます。良心の呵責に苛まれながらも、家族を守るために脅迫に応じ続ける晋吉。しかし、五十嵐の要求はエスカレートし、ついには晋吉の生活を脅かすまでに至ります。

追い詰められた晋吉は、五十嵐の弱みを握り返そうと探偵を雇い身辺調査を依頼するも、五十嵐は「どうしようもないくらいの善人」という評判ばかり。絶望した晋吉は、ついに五十嵐を殺害してしまいます。

逮捕された晋吉は、動機が認められたことで業務上過失致死となり、執行猶予付きの判決を受けます。しかし、事件はそこで終わりませんでした。五十嵐の妻が、夫が晋吉宛に書いた遺書を持ってきたのです。そこには、五十嵐が生活苦から生命保険金目当てに殺されることを望み、晋吉の過去の事故を利用して巧妙な狂言を演じた事が記されていました。そして、脅し取った金は全て返すようにと。

作品の魅力

本作の魅力は、何と言ってもその意外性に満ちた展開です。善良な市民が、過去の過ちを暴かれ、徐々に追い詰められていく様子は、読者に深い緊張感を与えます。また、五十嵐の動機が明らかになるラストシーンは、読者の倫理観を揺さぶるとともに、人間の心の複雑さを改めて認識させてくれます。

西村京太郎氏ならではの緻密なプロットと、心理描写によって、読者は最後まで飽きることなく物語に引き込まれるでしょう。

テレビドラマ化

『優しい脅迫者』は、過去に二度テレビドラマ化されています。1978年には『図ぶとい奴・危険な賭け』として、2001年には『脅迫者』として映像化され、それぞれ異なるアプローチで物語が描かれています。

特に2001年版は、主人公を女性に変更し、現代社会における問題を描き出すなど、原作とは異なる解釈が加えられています。ドラマ版もまた、原作の魅力を損なうことなく、新たな視点から物語を掘り下げています。

まとめ

『優しい脅迫者』は、西村京太郎氏の作品の中でも、特に人気の高い短編小説の一つです。人間の心の闇と、運命の皮肉を描いた本作は、ミステリーファンのみならず、幅広い読者に感動と驚きを与えることでしょう。ぜひ一度、手に取って読んでみてください。

登場人物

• - 野村 晋吉:理容師。
• - 野村 文子: 晋吉の妻。
• - 野村 かおる: 晋吉と文子の娘。
• - 五十嵐 好三郎: 元俳優。
• - 五十嵐 清子: 好三郎の妻。

もう一度検索