元大工町

元大工町（もとだいくまち）は、青森県弘前市に位置する歴史ある地区です。江戸時代初期に城下町として整備された際に成立し、その名の通り、多くの大工職人が居住したことに由来します。今日では、下白銀町の官公庁街や本町にほど近いながらも、落ち着いた雰囲気の住宅街として知られています。

この町は、弘前市の中心部に位置し、地理的には本町の裏手に広がっています。町域の北西から北にかけて下白銀町と境を接し、北東から東にかけては元長町に面しています。また、南部は本町、西部は塩分町、そして北西部では上白銀町とも隣り合っています。このように、弘前城郭の南西に位置し、かつての城下町の主要な通りや施設に近接しているのが特徴です。

元大工町の歴史は、江戸時代初期の弘前城下町建設に遡ります。正保3年（1646年）に作成された「津軽弘前城之絵図」には、この地域が町屋として区画整理されている様子が描かれていますが、当時はまだ特定の町名は付されていませんでした。慶安2年（1649年）になると、「弘前古御絵図」に「大工町」としてその名が登場します。この絵図によれば、この時には47軒の屋敷が割り当てられており、特に大工職人が20軒余り居住していたことが記されています。さらに、大工以外にも、医師、左官、山師、木綿屋、居鯖（いさば：魚を売る店）といった多様な職種の人々や、秋田屋のような商人も住んでいたことが確認されており、当時の大工町が職人と商人が混在する活気のある町であったことがうかがえます。

町の呼び名には変遷が見られます。延宝5年（1677年）の「弘前惣御絵図」には「南大工町」という名称が見え、さらに翌延宝6年（1678年）の「弘前町方屋敷割」では「大工町」および「大工ヨコ町」として記録されています。この時の記録では、屋敷数が51軒、町屋が37軒と増え、武家や医者の屋敷も12軒含まれていました。このことから、町の規模が拡大し、居住者の構成も変化していたことがわかります。元禄13年（1700年頃）になると、「町絵図」には現在の「本大工町」に近い名称が記されています。これは、元禄年間に弘前城郭内の武家屋敷が城西地区に移転し、そこに「西大工町」が成立したことに伴い、それまでの大工町が区別される形で「本大工町」あるいは現在の「元大工町」と呼ばれるようになったと考えられています。

城下町の構造が変化する中で、元大工町の一部も影響を受けました。寛政6年（1794年）には、下白銀町との間にあった武家屋敷や藩の用地が、藩校である稽古館の敷地として利用されることになりました。これは、教育機関の設置という形で町の機能が変化した一例と言えます。

明治時代に入っても町の変化は続きました。明治22年（1889年）には、町の西端北側に私立弘前女学校が新築移転してきました。この女学校は、明治19年に元寺町の日本基督教団弘前教会内に発足した来徳女学校が、翌年弘前遺愛女学校と改称した後の移転であり、近代教育施設の設置という点でも町の歴史に新たな一ページを加えました。

近現代を経て、元大工町は今日まで、下白銀町の官公庁街と本町の間に位置する住宅街としての性格を保っています。静かで落ち着いた住環境が特徴であり、2017年6月1日時点のデータでは、人口94人、世帯数54世帯と比較的小規模な町であることがわかります。

地名の由来は、その歴史が示す通り、江戸時代に大工職人が多く居住していたことに他なりません。城下町建設やその維持において重要な役割を担った大工たちが集住したことから、その名が冠されることになったのです。

町内には、大手門歯科や斎藤外科内科といった医療施設があり、住民の生活を支えています。教育に関しては、市立の小・中学校に通う場合の学区は、弘前市が定める学区区分に従います。交通については、弘南バスの停留所である大学病院前や市役所前が利用可能です。これらのバス停からは、弘前バスターミナルや弘前駅方面への路線などがあり、市内の主要拠点へのアクセスが確保されています。

元大工町は、江戸時代の町割りから始まり、大工職人の集住地として栄え、藩校や女学校の設置といった変化を経て、現代の住宅街へと至る、弘前城下町の歴史を今に伝える一角です。かつての面影を残しながらも、現代の生活が営まれており、過去と現在が共存する魅力的な町と言えるでしょう。

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