光線力学療法

光線力学療法（PDT）

光線力学療法（PDT）は、光感受性物質と光を組み合わせてがんなどの病巣を治療する革新的な方法です。具体的には、まず光感受性物質（光増感剤）を生体内に投与し、その後、特定の波長の光を照射することで、光感受性物質が活性酸素を生成します。この活性酸素が、がん細胞や感染症の原因となる病巣を破壊します。

治療の概要

PDTは、1980年代に気管支内の肺がん治療で使用されたことがきっかけで、広く知られるようになりました。現在では、早期肺がん、表在性食道がん、表在性早期胃がん、子宮頸部初期がん、異形成などに対して保険適用されています。

治療の際には、腫瘍組織に集まりやすい光感受性物質を事前に投与し、正常組織から光感受性物質が排出されるのを待ってから、腫瘍組織に光を照射します。これにより、選択的にがん細胞を攻撃することが可能になります。

光感受性物質と光源

PDTで使用される光感受性物質は、ポルフィリン化合物が代表的です。これらの化合物は、腫瘍組織に特異的に集積する性質を持っています。光感受性物質を活性化させるためには、特定の波長の光が必要であり、一般的には630nmのエキシマダイレーザーが使用されます。ただし、光感受性物質を励起できるエネルギーを持つ光源であれば、他の光源も使用可能です。浅い病変に対しては、410nmのレーザーが用いられることもあります。

現在、photofrin、Temoporfin、Purlytin、Foscan、フェオフォーバイドなど、さまざまな光感受性物質が開発されています。

皮膚病変への応用

PDTは、皮膚科領域への応用も進んでいます。日本では、1990年代から皮膚科領域での研究が始まり、5-アミノレブリン酸（ALA）というポルフィリン前駆物質の外用塗布が使用されています。ALAを含有するエマルジョンを皮膚に塗布した後、自然光による感光を防ぐために、アルミ箔などで患部を覆います。

利点と問題点

PDTの利点としては、以下の点が挙げられます。

美容的なメリット: 低出力の光源を使用するため、治療後の瘢痕が小さく抑えられます。
全身への影響が少ない: 全身的な中毒作用がなく、繰り返し治療が可能です。
他の治療法との併用が可能: 化学療法や温熱療法など、他の治療法と組み合わせることができます。

一方、PDTには以下のような問題点もあります。

適応が限られる: 腫瘍組織が外部に露出しているか、管腔内に存在し、かつ病変が小さい場合に限られます。
他の治療法の存在: レーザーによる焼却や内視鏡的切除（ESD）など、より確実な治療法が存在します。
保険適用の問題: 日光角化症やボーエン病などの皮膚科疾患に対しては、日本ではまだ保険適用されていません（2010年現在）。

腫瘍性病変以外への応用

PDTは、活性酸素による細胞障害効果だけでなく、局所の免疫機能調節効果や膠原線維の産生促進作用も持っています。そのため、尋常性ざ瘡（ニキビ）、脂腺増殖症、円形脱毛症、難治性疣贅（イボ）、ボーエン様丘疹症、皮膚サルコイドーシス、硬化性萎縮性苔癬、尋常性乾癬、扁平苔癬、強皮症、モルフィア（限局性強皮症）、皮膚真菌症、爪白癬、皮膚リーシュマニア症、創傷瘢痕、皮膚の美容領域など、幅広い疾患への応用が期待されています。

関連項目

大倉一郎 (化学工学者)
光免疫療法

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