兎絵

兎絵（うさぎえ）について

兎絵とは、明治時代に描かれた浮世絵版画の一種であり、特に1870年代に流行した絵柄のひとつです。この作品群は、日本の社会や経済の変化を反映しており、当時の人々のライフスタイルや価値観を知る手掛かりとなります。

兎の流行の背景

1872年7月頃、東京では兎を飼うことが流行し始めました。この現象は瞬く間に全国に広まり、兎の飼育や取引は一種のブームになりました。また、兎の需要が高まることで、これを受けた浮世絵版元たちが次々と兎を題材にした版画を発表するようになりました。その結果、町のあちこちでは兎を交換する人たちや、兎の売買が行われる市が催されていました。

流行の中で、兎はその愛らしい容姿から多くの人々に親しまれ、特に子供たちにとっては飼いやすいペットとしての人気を集めました。こうした流行は、当時の日本における投機の対象となり、多くの版画が描かれることとなりました。特に1873年には、さらに多くの兎絵が世に出ましたが、同年の2月に兎市が禁止されると、状況は一変しました。

経済的影響と文化的意義

兎のブームは短期間であったものの、その影響は注目に値します。特に、1873年の12月には高額な税金が課税され、兎に関する取引は厳しく制限されました。この動きは、当時の日本の経済がいかに不安定であったかを示しています。また、兎絵は日本型資本主義の初期に見られた原始的な蓄積の一例とも言えるでしょう。多くの兎絵は商業的な利益を目的として描かれたため、粗悪な作品も多く、その人気は一時的に過ぎませんでした。

主要な作品と作家

この時期に活動した浮世絵師の中でも、特に著名な版元や作家がいくつか存在します。例えば、蓮池堂、歌川芳藤、3代目歌川広重、4代目歌川国政、歌川小芳盛などがその代表的な存在です。彼らの作品には、次のようなものがあります：

• - 蓮池堂 「吉例兎年年礼噺」（東京国立博物館所蔵、明治5年）
• - 蓮池堂 「玉兎黄金の酉年」（東京国立博物館所蔵、明治5年）
• - 歌川芳藤 「兎の大相撲」（明治6年、木村定五郎版）
• - 歌川小芳盛 「高運不運 兎の盛衰」（東京国立博物館所蔵、明治6年）
• - 3代目歌川広重 「兎ばえ」（竪大判、明治7年）
• - 4代目歌川国政 「兎の草履打」（太田記念美術館所蔵）

これらの作品は、当時の人々の兎に対する情熱や興味を表現しており、視覚的な楽しみだけでなく、社会的背景も伝えています。

まとめ

兎絵は、明治時代における重要な文化的現象を示すものであり、当時の人々にとっての兎の愛用品としての地位を反映した作品群です。その背後には、経済の変化や社会的な流行があり、まさに浮世絵版画の中でも特異な位置を占めるものとなっています。さらに、これらの作品を通じて、当時の文化や価値観、人々のライフスタイルに触れることができ、明治時代の社会を理解するための貴重な媒介となるでしょう。

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