入江相政日記

入江相政日記

『入江相政日記』は、昭和天皇の侍従長を務めた入江相政が、1935年から1985年9月までほぼ毎日記した日記です。入江は1905年に生まれ、侍従次長を経た後、1969年から1985年にかけて侍従長を務めました。日記は、入江が亡くなる前日まで記録されており、朝日新聞社から公刊されています。

典型的な歴史的記録であるこの日記は、戦前から戦後の日本の好況と困難、特に天皇制の変遷を描いています。特に、終戦後の占領時代や戦後復興の過程において、入江は昭和天皇や香淳皇后など皇室の動静を鮮明に記録しました。その内容は、侍従長としての彼の視点から見る皇室の内情や、当時の社会背景を知る上で貴重な資料となっています。

日記には、歴代の侍従長や宮内庁に関わる人々の様子も記載されており、入江自身の生活や家族の歴史も垣間見ることができます。入江は旧堂上華族の出身でしたが、戦後の困難な時期に生活難を経験し、それを克服する様子をエッセイとして執筆することで、文筆家としても認められました。こうした個人の物語が皇室の歴史と交錯し、著者の独自の視点を感じさせます。

特に注目すべきは、1960年春に行われた皇太子明仁親王と正田美智子の成婚に至るまでの経緯です。この出来事を受けて、皇后や女性皇族、華族婦人たちの反発があったことも日記には記されています。また、昭和天皇の健康の衰えや秘話も詳細に語られ、1953年に亡くなった秩父宮雍仁親王の葬儀に関する出来事や、宮中の内情に関してもリアルな視点で記述されています。

入江相政の日記は、1990年から1991年にかけて全6巻が公刊され、その後1994年から1995年にかけて全12巻の朝日文庫版も出されています。長男の入江為年が監修を行い、宮内庁の記者である岸田英夫らが編集を担当しました。さらに、この日記の内容の一部は、朝日新聞の朝刊で抜粋連載されました。

この日記は、戦前から戦後にかけての日本、特に皇室とその周辺の人々の生活や考え方を知るための貴重な資料であり、歴史的な価値を持つ文献として広く認識されています。入江の平易な文体は、専門的な知識がない読者にも理解しやすい形で、当時の日本の社会や文化、政治に関する情報を提供しています。また、皇室や宮中の動静についての詳細な記録は、後世においても重要な参考資料となることでしょう。

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