全日空下田沖墜落事故

全日空下田沖墜落事故

1958年8月12日、全日本空輸（全日空）のダグラスDC-3型機が、東京・羽田空港から名古屋飛行場（小牧空港）へ向かう途中、伊豆半島下田市沖で墜落しました。この事故は、全日空にとって創業以来初の人身死亡事故となり、乗員3名、乗客30名の計33名全員が犠牲となる痛ましい結果となりました。

事故の概要

事故を起こした全日空25便は、羽田空港を午後7時53分に出発し、名古屋へ向かう予定でした。しかし、午後8時30分頃、下田市沖上空を飛行中に、同僚機である16便に対し、「左側エンジンが不調で停止したため、羽田空港へ引き返す」と連絡しました。その後、午後8時55分を最後に通信が途絶え、消息不明となりました。

翌13日の早朝から、海上保安庁の巡視船や自衛隊の航空機による大規模な捜索が開始されましたが、強風と高波の影響で難航しました。同日午後0時30分頃、利島から約17km離れた海上で、25便の墜落が確認され、乗員乗客全員の死亡が確認されました。荒れた海況の中、捜索が続けられ、乗客の荷物、機体の残骸、そして18名の遺体が収容されましたが、残る15名と機体の大部分は発見されませんでした。墜落した機体は、水深600mの海底に沈んでいることが確認されましたが、当時の技術では引き揚げることができませんでした。

事故原因の究明

事故当時、航空機にはフライトデータレコーダーやコックピットボイスレコーダーが搭載されておらず、最終的な事故原因を特定することはできませんでした。しかし、回収された機体の残骸や目撃証言から、いくつかの可能性が指摘されています。

エンジントラブル: 左側エンジンの不調に加え、右側エンジンも出火していたという証言がありました。また、手動式ジャイロコンパスの不具合も指摘されています。
操縦ミス: エンジントラブルにより、水平儀の真空ポンプが停止し、操縦士がポンプの切り替えに失敗した結果、盲目飛行に陥り、夜間の海上に墜落したという説があります。当時の全日空は、中古のDC-3型機を使用しており、機体ごとに仕様が異なっていたため、操縦士が計器やスイッチの配置に戸惑うこともあったようです。また、この機体特有の真空ポンプの切り替え操作を知らなかった可能性も指摘されています。
その他: 回収されたトイレのドアがロックされていたことから、事故直前まで乗客がトイレを使用していた可能性も指摘されています。これにより、機体のトラブル発生から墜落までの時間が短かった可能性が示唆されています。

運輸大臣に提出された事故調査報告書では、これらの可能性を指摘しつつも、原因の特定は困難であると結論付けられました。

事故の影響

この事故を受けて、全日空は安全対策を強化しました。まず、整備士や技術者の派遣を受け、整備体制を拡充しました。また、運行時間を削減し、整備に注力できる体制を整えました。さらに、政府からの補助金を得て、保有するDC-3型機の操縦系統を改修し、仕様を統一しました。この事故は、日本の航空安全対策を見直す契機となり、航空機の安全基準の強化につながりました。

関連情報

慰霊碑: 下田市にある雁島には、事故犠牲者を弔う慰霊碑が建てられています。
* 下田八幡神社例大祭: 事故が発生した年の例大祭は、自粛されました。

この事故は、多くの犠牲者を出し、航空業界に大きな衝撃を与えました。原因は特定できなかったものの、この悲劇を教訓として、より安全な空の旅が実現されるよう、努力が続けられています。

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