八田善之進

八田 善之進（はった ぜんのしん）

1882年（明治15年）2月1日に福井県吉田郡上中村（現在の福井市上中町）で、八田善左衛門の次男として生を受けました。日本の医学界において、特に内科医として、また宮内省の侍医として重要な足跡を残した人物です。

少年期を郷里で過ごした後、福井中学校、そして第四高等学校へと進み、勉学に励みました。1909年（明治42年）12月、東京帝国大学医科大学を卒業し、医学の道を本格的に歩み始めます。

大学卒業後は、母校である東京帝国大学医科大学の医科学教室に籍を置き、さらに助手として研究活動に従事しました。臨床経験と研究で知見を深めた後、1917年（大正6年）2月には愛知県立医学専門学校の教授に転じ、教育者としても才能を発揮します。同時に愛知病院の内科第一部長を兼任し、地域医療の第一線で多くの患者と向き合いました。これらの功績により、同年11月12日には医学博士の学位を取得しています。

1919年（大正8年）11月、八田は宮内省へと活躍の場を移し、侍医に任命されました。東宮御所に詰めることとなり、皇族の健康管理という極めて重い責任を担うことになります。特に1921年（大正10年）には、皇太子（後の昭和天皇）の欧州訪問に随行し、長期間にわたる重要な旅路を医学的な見地から支えました。この間、教育への情熱も冷めることはなく、日本大学医学科の講師、後に科長も兼務し、後進の指導にもあたっています。

1937年（昭和12年）3月9日、八田は宮内省における侍医の最高責任者である侍医頭に昇進しました。この要職には1945年（昭和20年）11月23日まで在任し、激動の時代における皇室の医療体制を統括しました。侍医頭在任中には、宮内省御用掛も兼ねています。

終戦後も、その経験と識見は求められました。1947年（昭和22年）1月9日には、国家の重要事項を審議する枢密院の顧問官に任命されます。枢密院は同年5月2日に廃止されたため、在任期間は短かったものの、そのキャリアの多様性を示す出来事でした。また、1951年（昭和26年）3月3日には、皇太子欧州巡遊30周年の記念すべき日に、かつての随行者たちとともに皇居に招かれる栄誉にあずかっています。

公職を離れた後も、八田は医療分野への貢献を続けました。社会保険横浜中央病院長を経て、1953年（昭和28年）からは10年間にわたり、社会保険中央総合病院長を務め、多くの人々の健康増進と医療体制の充実に尽力しました。

1964年（昭和39年）1月7日、81年の生涯を閉じた八田善之進の墓所は、東京都府中市の多磨霊園にあります。長男の八田善夫氏は昭和大学医学部消化器内科の教授となり、孫の八田善広氏も日本大学医学部血液膠原病内科の教授を務めるなど、子孫にも医学者が多く、その医療への情熱は後の世代にも引き継がれています。

栄典としては、1940年（昭和15年）8月15日に紀元二千六百年祝典記念章を授与されています。

八田善之進は、一内科医として研鑽を積む傍ら、皇室の侍医という特別な立場で国家の重要な場面に立ち会い、また医学教育や病院運営にも深く関わった、日本の近代医学史における多角的な貢献者といえるでしょう。

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