八田数

八田数：化学反応を伴うガス吸収における無次元数

八田数(Hatta Number, Ha)は、化学工業における気液接触系でのガス吸収操作において、非常に重要な役割を果たす無次元数です。この数は、化学反応を伴う場合と伴わない場合の吸収速度の比を表し、物質移動現象の解析に広く用いられています。

八田数の定義

八田数は、気相中の成分が液体に吸収される際に、化学反応が吸収速度に及ぼす影響を定量的に評価するために用いられます。具体的には、化学反応を伴う吸収速度と、化学反応を伴わない（物理吸収）場合の吸収速度の比として定義されます。

計算式

一次不可逆反応の場合、八田数Haは次式で定義されます。

\( Ha = \frac{\gamma}{\tanh \gamma} \)

ここで、\( \gamma \) は次式で表されます。

\( \gamma = L \sqrt{\frac{k}{D}} \)

L: 境膜の厚さ (m)
k: 反応速度定数 (1/s)
D: 液相中の拡散係数 (m²/s)

\(\gamma\) 自体を八田数と定義する流儀もあり、この場合、反応速度と拡散速度の比を表すことになります。これは、触媒反応におけるチーレ数とほぼ同義です。

八田数の意味と解釈

八田数が小さい場合(Ha ≪ 1)、反応速度は拡散速度よりもはるかに遅いため、化学反応は吸収速度にほとんど影響を与えません。この状況では、吸収は主に物理吸収によって支配されます。一方、八田数が大きい場合(Ha ≫ 1)、反応速度は拡散速度よりもはるかに速いため、吸収は反応速度によって支配されます。吸収された物質は、液体境膜に到達する前にすぐに反応してしまいます。

八田数は、反応器設計や操作条件の最適化において重要な役割を果たします。例えば、八田数に基づいて、吸収塔の高さや充填物の種類などを決定することができます。また、八田数を用いることで、化学反応を伴うガス吸収操作の効率を予測・評価することも可能です。

適用事例

八田数は、様々な化学プロセスにおけるガス吸収操作の設計や解析に適用されます。例えば、アンモニア合成、二酸化硫黄の吸収、炭酸ガスの吸収など、様々な工業プロセスにおいて八田数は重要な指標として用いられています。また、環境工学分野においても、大気中の汚染物質の除去プロセスなどを評価するために利用されています。

関連概念

八田数と関連性の高い概念として、次のものがあります。

チーレ数: 触媒反応における反応速度と拡散速度の比を表す無次元数。八田数とほぼ同一の意味を持つ場合がある。
物質移動係数: 物質移動速度を表す係数。八田数の計算に用いられる拡散係数と密接に関係している。
境膜理論: 物質移動を境膜における拡散と反応の組み合わせでモデル化する理論。八田数の基礎となる理論である。

まとめ

八田数は、化学反応を伴うガス吸収操作を理解し、設計・最適化するために不可欠な無次元数です。反応速度と拡散速度の比を表し、吸収速度に化学反応がどのように影響するかを定量的に評価する指標として、様々な工業プロセスや環境工学分野で広く活用されています。

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