八街児童5人死傷事故

2021年（令和3年）6月28日の午後3時半頃、千葉県八街市において、下校途中の小学生の列に大型トラックが突っ込むという、極めて痛ましい交通事故が発生しました。この事故により、朝陽小学校に通う児童5人が巻き込まれ、うち2人が尊い命を失い、1人が意識不明の重体、他の2人も重傷を負う結果となりました。

運転していた男は事故発生後、警察による呼気検査で基準値をはるかに超えるアルコールが検出され、飲酒運転であったことが判明しました。さらに、事故当時はアルコールの影響により、居眠り状態であったとされています。

事故現場と背景にある課題

事故が発生した八街市道12016号線は、小学校の通学路に指定されていましたが、道幅は約7メートルと狭く、子供たちを危険から守るガードレールや歩道は整備されていませんでした。直線道路でありながら交通量が多く、信号機もないにも関わらず、市教育委員会はこの場所を特に危険な箇所とは認識していませんでした。

実は、被害児童が通う小学校のPTAは、事故現場を含む通学路の安全対策として、2008年から近隣校と連名で複数回にわたり市へガードレール設置を要望していました。しかし、市側は用地買収や建物移転に伴う多額の費用を理由に難色を示し、交差点の改修や信号機設置といった代替策で対応してきました。同様の要望は2014年にも出されましたが、整備は交通量の多い主要幹線道路が優先され、通学路の対策は後回しにされていた経緯があります。また、今回の事故の5年前、2016年にも同じ小学校の児童が集団登校中にトラックに轢かれ、4人が負傷する事故が発生しており、市教育委員会はその後注意喚起を行っていましたが、抜本的な対策には至っていませんでした。

事故後の広がりと対応

この事故を受けて、国の行政機関から地方自治体、さらには民間企業や報道機関に至るまで、様々な方面で影響と対応が見られました。

行政の動き
当時の文部科学大臣は飲酒運転に強い怒りを表明し、通学路の交通事故撲滅に向けた取り組みの検討を指示。当時の内閣総理大臣は、交通安全対策に関する関係閣僚会議を開催し、悲惨な事故を二度と繰り返さないために通学路の全国的な総点検の実施や飲酒運転対策の徹底を指示しました。千葉県知事も被害者への心痛を表しつつ、県内通学路の緊急一斉点検やスクールカウンセラー派遣といった対策を指示。さらに、県は国に対し、事業用車両以外のアルコール検査義務化やスクールバス助成要件緩和などを求める緊急要望を行いました。八街市長も謝罪し、通学路の安全対策強化を表明しました。事故後、全国各地で児童の登下校時の見守り活動や交通安全対策が強化され、事故現場付近の通学路では速度制限の引き下げや大型車両の終日通行止め措置が講じられました。

企業の対応と風評被害
加害者である運転手が勤務していた運送会社の親会社の社長は謝罪会見を開き、日常的なアルコール検査を実施していなかったことを認めました。また、この事故とは無関係でありながら、加害者側の会社と社名が同読み異漢字の企業に、クレームや誹謗中傷が殺到するという風評被害も発生しました。当該企業は警察の助言を受けて無関係であることを説明し、情報削除を求める対応に追われました。

* 学校への影響と報道のあり方
被害児童が通う小学校は臨時休校となり、急な対応の中で登校した児童の受け入れが行われました。その後、学校は再開され、事故現場付近の児童にはスクールバスでの登校が提供されました。一方で、一部の報道機関が、亡くなった児童の同級生に対し、事故や故人について尋ねる配慮に欠けるインタビューを行ったとして批判を受けました。放送倫理・番組向上機構（BPO）は、児童の心理的な領域に踏み込む取材姿勢や、SNSでの拡散による二次的な心理的ダメージの危険性について懸念を示す声明を発表し、ニュース取材のあり方について再考を求めました。

捜査と裁判の経過

事故を起こした運転手の男は、基準値を超えるアルコールが検出されたため、千葉県警察に過失運転致傷容疑で現行犯逮捕されました。男は当初「帰る途中に酒を飲んだ」「運転中に右から黒い影が見えた」などと供述しましたが、防犯カメラには人影や動物は確認されませんでした。その後、容疑は危険運転致死傷罪に切り替えられ、千葉地検に送検されました。現場検証を経て、千葉地検は事故当時アルコールの影響で居眠り状態であったと判断し、危険運転致死傷罪で男を起訴しました。

2021年10月6日に千葉地方裁判所で初公判が開かれ、被告は起訴内容を全て認めました。検察側は、被告が飲酒運転を常習的に行っていた点を指摘。2022年3月25日に下された判決では、裁判長は被告に懲役14年の実刑判決を言い渡しました。被告は自らの責任を全面的に認めていたため、弁護側は控訴せず、裁判は終結しました。

事故がもたらした法改正

この事故を契機に、飲酒運転対策が強化されました。事故車両がアルコール検査義務の対象外である自家用車両（白ナンバー）であったことから、2022年4月には道路交通法施行規則が改正され、一定台数以上の白ナンバー車を使用する事業所においても、安全運転管理者の選任や運転前後のアルコール検査が義務付けられることとなりました。また、事故発生から2年後の2023年には、千葉県が県飲酒運転根絶条例を改正・施行し、飲酒運転検挙者への酒類提供者に対する法的措置を強化するなど、飲酒運転撲滅に向けた取り組みが進められています。

この事故は、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、社会全体で飲酒運転の根絶と通学路をはじめとする交通安全対策への意識を高める重要な教訓となりました。

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