共和演説事件

共和演説事件

共和演説事件は、1898年8月22日に尾崎行雄が帝国教育会の前で行った演説が引き金となり、大隈内閣の崩壊を招いた一連の出来事です。この事件は、当時の日本の政治状況や内閣の動揺を示す重要な事例として位置づけられています。

背景

明治31年の第5回衆議院議員総選挙では、立憲自由党と進歩党が圧倒的な勝利を収めました。その後の政府に対する反対が相次ぎ、伊藤博文が首相を辞任し、大隈重信が新たに内閣を組織しました。この内閣は、憲政党による初の政党内閣であり、一見すると強固な体制に見えました。しかし、旧自由党系と旧進歩党系の派閥が対立しており、内閣の内部は非常に不安定でした。

尾崎の演説

文部大臣として就任していた尾崎行雄は、当時39歳で内閣の最年少メンバーでした。彼は教育者の言論の自由を支持し、教育機関における統制を緩和しようとしていました。8月22日、尾崎は500人の教育関係者を前にして演説を行い、その中で教育者の意見表明の権利を守る必要性や、拝金主義の蔓延を批判しました。演説自体は盛況で、何度も拍手が送られましたが、一部については後に問題視されることとなります。

特に、尾崎はアメリカの共和制と比較し、日本政界における拝金主義の蔓延を懸念しました。その際に「日本が共和制になった際には、大財閥の名前が大統領候補として挙げられる」と発言したことが、後に大騒動を引き起こすことになります。

批判の始まり

演説の内容は、翌日、東京日日新聞で報じられ、尾崎の発言を批判する記事が次々と載せられました。尾崎が「共和制」を提起したことが問題視され、特に天皇や政府高官、一部の新聞社からの反発が強まりました。批判を受けて、尾崎は速記録を公開し、内容を弁明しようとしましたが、報道陣は次第に彼の主張に対して疑念を持ち始めました。

教育界を代表する帝国教育会は、報道に対して反発し事実関係の修正を求めましたが、反響は収まらず、世論は尾崎に対する批判で盛り上がり続けました。

宮中の反応と内閣の動揺

天皇側近からの調査要請があり、尾崎は従う形で速記録を提出しましたが、内容に問題があるとみなされました。8月31日、宮内省からは「天皇は尾崎に対して特に悪感を持っていない」との公式見解が発表されましたが、世間ではそれが本当かどうか疑念が強まりました。

内閣の中では、尾崎を処罰するよう求める声が上がり、最終的には彼が謝罪することを余儀なくされました。尾崎は、謝罪することが自分の非を認めることになると躊躇しましたが、内閣の不安定さが彼に強い圧力をかけました。

崩壊への道

10月21日、内務大臣の板垣が首相に内閣からの辞職を提案しており、次第に大隈内閣の危機が深まります。天皇からの圧力や、内閣内の激しい対立によってついに崩壊のときが訪れました。尾崎は反発しながらも辞表を提出し、これにより内閣全体が連帯責任を問われる形になりました。

そして、10月31日、大隈内閣は総辞職し、翌月には新しい内閣が誕生します。この一連の流れは、当時の日本における政治的変革の一環として深い意味を持つものでした。共和演説事件は、内閣の内情や政界の流れを象徴する重要な事件と考えられています。

もう一度検索