共通言語ランタイム

共通言語ランタイム（Common Language Runtime, CLR）は、マイクロソフトが開発した.NET Frameworkアプリケーションを実行するための仮想機械です。これは、共通言語基盤（Common Language Infrastructure, CLI）のマイクロソフトによる実装であり、.NETアプリケーションの実行環境として中心的な役割を果たします。

CLRの進化

初期の.NET Framework 1.xから4.xで使用されていたCLRは、Windows環境でのみ動作していました。しかし、.NET Coreの登場により、状況は大きく変化しました。.NET CoreはMITライセンスのオープンソースプロジェクトとして公開され、その中核をなすCoreCLRは、Windowsだけでなく、macOS、Linux、FreeBSDなど、様々なオペレーティングシステムで動作するようになりました。さらに、.NET 5以降では、CLRは.NET Runtimeと呼ばれるようになり、.NET 6ではAndroidやiOSといったモバイルプラットフォームもサポート対象となりました。これにより、.NETアプリケーションはより幅広い環境で実行可能となり、開発の柔軟性が大幅に向上しました。

中間言語とJITコンパイラ

CLRの重要な機能の一つに、共通中間言語（Common Intermediate Language, CIL）の解釈があります。CILは、プログラミング言語や実行環境に依存しない中間言語であり、.NET対応の様々な言語（C#、VB.NETなど）で記述されたコードは、まずこのCILにコンパイルされます。そして、CLRはCILを実行時にJIT（Just-In-Time）コンパイラによって機械語に変換し、実行します。これにより、異なるプラットフォーム上でも同じ.NETアプリケーションが動作することを可能にしています。特に.NET Framework 4.6以降では、64ビット版でRyuJITという名称の高性能なJITコンパイラが導入されました。ただし、初期のRyuJITにはいくつかの不具合があったため、.NET 4.6.2へのアップデートや、RyuJITを無効化するなどの回避策が一時的に必要とされました。

その他のCLRの役割と機能

CLRは、単にCILを解釈して実行するだけでなく、様々な重要な機能を提供しています。

メモリ管理（ガベージコレクション）: CLRは、メモリの割り当てと解放を自動的に管理します。これにより、開発者はメモリリークなどの問題に煩わされることなく、アプリケーションのロジックに集中できます。ガベージコレクションは、不要になったメモリ領域を定期的に回収し、効率的なメモリ利用を可能にします。
型とアセンブリの管理: CLRは、.NETアプリケーションで利用される型（クラス、構造体など）とアセンブリ（実行可能コードやライブラリ）を管理します。これにより、型安全性が確保され、異なるアセンブリ間の連携がスムーズに行われます。
スレッド管理: CLRは、複数のスレッドを効率的に管理し、マルチスレッドアプリケーションの開発を支援します。スレッドの作成、実行、同期などの操作を抽象化し、開発者が並行処理を容易に実装できるようにします。
例外処理: CLRは、プログラム実行中に発生する例外（エラー）を適切に処理する機能を提供します。例外が発生した場合、プログラムが異常終了するのを防ぎ、適切にエラー処理を行うことができます。
セキュリティ: CLRは、.NETアプリケーションのセキュリティを確保するための様々な機能を提供します。コードアクセスセキュリティ（CAS）など、悪意のあるコードの実行を制限し、アプリケーションを保護します。

このように、CLRは.NETアプリケーションの実行に不可欠な基盤であり、その進化は.NETエコシステム全体の発展を支えています。近年の.NET Core、そして.NET Runtimeへの移行は、CLRがより多くのプラットフォームに対応し、より高性能になることを意味しています。

関連項目

Java仮想マシン

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