共通農業政策

共通農業政策（CAP）の全貌：歴史、現状、そして将来

共通農業政策（CAP、Common Agricultural Policy）は、1962年に発足した欧州連合（EU）の農業政策です。EU加盟国の農業生産を支援し、食料の安定供給や農村地域の活性化を図ることを目的としています。

CAPの歴史：保護政策から多面的政策へ

CAPは、1957年のローマ条約で共同市場設立が謳われたことを受けて誕生しました。当時、加盟国はそれぞれ独自の農業保護政策を実施しており、貿易自由化の障害となっていました。そこで、各国政策を調整し、EU全体で農業政策を統一する必要性が生じました。

初期のCAPは、価格維持や輸入制限を重視した保護政策的な色彩が強かった。EU域内の農産物価格を安定させ、農家の所得を確保することが主な目標でした。しかし、過剰生産や環境問題などの課題も発生。

1990年代以降、CAPは抜本的な改革を経験します。生産量に連動した補助金から、農地の環境保全や農村開発への支援へと重点が移行しました。この改革は、「デカップリング（生産量と補助金の切り離し）」と呼ばれ、農家の生産物の選択の自由度を高めると共に、過剰生産抑制に繋がりました。

2000年代以降は、EU拡大に伴う農家数の増加や、環境問題への関心の高まりなどを踏まえ、さらなる改革が進められました。特に、環境保全に配慮した農業への支援が強化され、持続可能な農業への転換が促進されています。

CAPの目的：多様なニーズへの対応

CAPの目的は、ローマ条約に定められています。農家の生活水準向上、市場の安定化、生産能力の確保、消費者への適正価格での食料供給などが含まれます。近年は、食品安全、環境保護、農村地域開発、代替エネルギー生産といった課題への対応も重要視されています。

CAPの仕組み：多様な政策手段の活用

CAPは、関税、輸入数量制限、貯蔵による価格調節、直接支払いの補助金など、多様な政策手段を組み合わせて運営されています。直接支払い補助金は、かつては生産量に基づいて支給されていましたが、現在は農地の環境保全などの条件を満たすことが支給要件となっています。

また、過剰生産を抑制するために生産量制限や農地削減給付金制度も導入されました。しかし、近年は農作物価格の高騰やバイオ燃料需要の高まりから、農地削減措置は停止されています。

さらに、食品の安全や品質、環境保護、動物福祉に関するEU域内法令の統一化も進められていますが、加盟国間の違いを完全に解消するには至っていません。

CAPの資金：EU予算の大きな部分を占める

CAPの資金は、EUの欧州農業指導保証基金から拠出されます。CAP関連支出はEU予算の大きな割合を占めており、その配分については加盟国間の利害が対立することもあります。特に、新規加盟国への補助金配分や、伝統的に農業が盛んな国への配分については、議論が繰り返されてきました。

CAPをめぐる課題と批判

CAPは、その創設以来、様々な批判にさらされてきました。主な批判としては、以下のようなものがあります。

保護貿易的であるとの批判: 価格介入や補助金によって市場の歪みを生み出し、過剰生産や非効率性を招いている。
環境問題への影響: 化学肥料や農薬の過剰使用による環境汚染。
小規模農家への不利益: 大規模農家ほど補助金の恩恵を受けやすく、小規模農家の経営を圧迫しているとの指摘。
発展途上国への影響: EUの農業補助金によって、発展途上国の農産物輸出が阻害されている。
* 資金配分の不公平性: 一部の加盟国がCAPから過大な恩恵を受けている一方、他の加盟国は多額の拠出をしているとの批判。

CAPの将来展望：持続可能性と改革

CAPは、EU農業の将来にとって重要な政策です。しかし、持続可能性や公平性の観点から、さらなる改革が必要とされています。環境保護の重視、小規模農家の支援、発展途上国との貿易摩擦の解消といった課題に、どのように取り組んでいくかが今後の焦点となります。

結論

CAPは、半世紀以上にわたってEU農業を支えてきた政策です。その間、数々の改革を経て、その役割や重点は変化を続けています。これからも、EUの農業政策は、食料安全保障、農村地域振興、環境保全といった多様な課題に対応し、持続可能な発展を目指していく必要があります。

もう一度検索