内貴甚三郎

内貴 甚三郎（ないき じんざぶろう）

内貴甚三郎は、幕末の嘉永元年（1848年）10月21日、京都の由緒ある呉服問屋「銭清」に生まれました。明治から大正にかけて、政治家そして実業家として京都の近代化と発展に多大な貢献をした人物です。

政治家としての歩み

京都の経済界に身を置きながらも、甚三郎は市政への関心を深め、京都市会議員として政治の世界に入りました。明治21年（1888年）、市制が施行されると、彼は京都の初代官選市長という重責を担うことになります。初代市長として、都市の基盤整備や行政機構の確立など、今日の京都市政の礎を築くための重要な役割を果たしました。

市長退任後も政治との関わりは続き、明治37年（1904年）には第9回衆議院議員総選挙に出馬し、当選を果たしています。衆議院議員としては、国政の場で京都の利益を代表し、地域社会の発展に貢献しました。

実業家・財界の重鎮として

甚三郎の活動は政治分野にとどまらず、実業界でもその手腕を遺憾なく発揮しました。彼は京都商業会議所の設立発起人として名を連ね、後に会頭に就任しました。商業会議所の会頭として、京都の商工業者の地位向上や産業振興に積極的に取り組みました。

また、彼は様々な企業の経営に深く関与しました。京都を代表する産業である織物分野では京都織物会社の委員長を務め、金融分野では商工貯金銀行の頭取、京都商工銀行の取締役を歴任しました。さらに、京都株式取引所の肝煎や京都陶器会社の取締役なども務めるなど、多岐にわたる事業に関わり、それぞれの発展に貢献しました。その卓越した経営手腕と京都経済界における影響力から、彼は浜岡光哲、田中源太郎、大澤善助といった同時代の有力者と共に「京都財界四元老」と称される存在でした。この称号は、彼が京都の産業構造の近代化や資本主義経済の発展において中心的な役割を担ったことを示しています。

文化・教育への貢献と著作

経済活動に加え、甚三郎は教育分野にも関心を持ち、京都法政学校（現在の立命館大学）の設立賛助員を務めるなど、将来を担う人材の育成にも貢献しました。

また、彼は自らの知識や経験を著書として残しています。『京華要誌』や『京都市上下水道工事市区域拡張道路改良取調書』といった著作からは、彼が当時の京都市の状況、特に都市インフラの整備や都市計画に対して深い知見と強い関心を持っていたことが伺えます。これらの著作は、当時の京都の社会や都市政策を知る上で貴重な資料となっています。

晩年と後世への影響

内貴甚三郎は、大正15年（1926年）7月9日に77歳で亡くなるまで、京都の政治、経済、文化の発展のために尽力しました。初代京都市長としての行政経験、多様な企業の経営に関わった実業家としての手腕、そして京都財界の中心人物としてのリーダーシップは、今日の京都の繁栄の基礎を築く上で欠かせないものでした。彼の功績は、京都市三大事業のような大規模な都市改造事業の推進にも間接的に影響を与えたと考えられています。

長男の内貴清兵衛もまた実業界で活躍するなど、その影響は次世代にも引き継がれました。現代においても、彼の名は京都の近代化に貢献した先駆者として語り継がれています。2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』では、歴史家の磯田道史氏が内貴甚三郎役で出演するなど、その存在が改めて注目されることもあります。

もう一度検索