円谷裕二

円谷裕二氏は、1952年（昭和27年）福島県に生まれ、日本の哲学研究に貢献した第一人者の一人であり、九州大学名誉教授を務めました。その学問的探求は、ドイツ観念論の中心人物であるイマヌエル・カントの哲学を基盤としつつ、20世紀フランスの現象学者モーリス・メルロ＝ポンティ、さらには近代哲学全般や生命倫理、政治哲学に至るまで、広範な領域に及んでいます。

円谷氏の学歴は、福島県立磐城高等学校を卒業後、東京大学文学部哲学科に進学し、1976年（昭和51年）に卒業したことに始まります。さらに研究を深めるため、東京大学大学院人文科学研究科の博士課程に進み、1982年（昭和57年）に単位取得満期退学しました。この大学院での期間は、その後の研究者としてのキャリアの礎を築く重要な時期であったと言えるでしょう。

研究者としてのキャリアは、1990年（平成2年）に信州大学教養部助教授としてスタートしました。その後、1994年（平成6年）に九州大学文学部助教授に転じ、1998年（平成10年）には同大学院人文科学研究院哲学講座の教授に昇任しました。九州大学では長年にわたり教鞭を執り、多くの学生や研究者を育成しました。2018年に定年退職を迎え、同大学より名誉教授の称号を授与されています。

円谷氏の主要な研究テーマは、カントの超越論的哲学、特に経験と存在の関係性、認識論や倫理学における根源的な問題の探究にありました。その成果は主著『経験と存在 カントの超越論的哲学の帰趨』として結実しています。また、近代哲学全体を俯瞰し、有限性と無限性という視点からその射程を論じた『近代哲学の射程 有限と無限のあいだ』、デカルトとカントの思想を人間、自然、神といった根源的な問いをめぐって比較考察した『デカルトとカント 人間・自然・神をめぐる争い』といった著作からも、その幅広い関心が伺えます。

さらに、円谷氏はメルロ＝ポンティ哲学にも深い造詣を示しており、『知覚・言語・存在 メルロ＝ポンティ哲学との対話』では、身体や知覚、言語といったテーマを通じて、現象学的なアプローチから存在論的な問いに迫っています。近年の論文においても、メルロ＝ポンティの身体論や世界概念に関する研究成果を発表しています。

共編著や翻訳活動も精力的に行っており、『新しい認識への論理』、『哲学理論の歴史』、『西洋哲学の歴史』、『西洋哲学の展開』といった哲学史に関する著作への貢献は、哲学教育の発展にも寄与しました。特にカント研究においては、『カント読本』、『現代カント研究 5 社会哲学の領野』（編著）、『カントと生命倫理』、『講座 近・現代ドイツ哲学Ⅰ カントとドイツ観念論』、『カントを学ぶ人のために』、『新・カント読本』など、多数の共著に関わり、日本のカント研究の普及と深化に貢献しました。また、生命倫理の分野にも関心を持ち、『バイオエシックスの基礎』などの翻訳を手がけています。

近年の研究では、ハンナ・アーレントの政治哲学にも焦点を当て、行為論や根源悪、人権概念といったテーマで論文を発表しており、その探求の幅はさらに広がっています。ドイツ語やフランス語での論文発表からもわかるように、国際的な視点を持って研究に取り組んでいました。円谷裕二氏の業績は、カント哲学を核としながらも、近代哲学から現代思想に至るまで、多岐にわたる哲学的問いに真摯に向き合った軌跡を示しています。

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