再春 (松本清張)

『再春』の概要

松本清張の短編小説『再春』は、1979年に『小説新潮』で発表され、その後短編集『隠花の飾り』に収められた作品です。著者は社会派小説で著名な作家であり、本作もまた、個々の人間関係や内面的な葛藤を描いています。物語は鳥見可寿子という女性作家の成長と彼女を取り巻く環境の変化を中心に展開します。

あらすじ

物語の主人公、鳥見可寿子は中国地方の大都市に住んでいます。彼女は東京の文学雑誌に投稿した小説が新人賞を獲得し、さらには年度の文学賞にも選ばれるなど、その才能を認められることになります。地元のテレビや新聞は彼女を取り上げ、彼女の成功を盛大に報じます。これを冷やかし半分で見ていた夫の敏雄ですが、可寿子の名声が高まるにつれて、彼自身も東京本社への転勤の可能性が出てくると、妻に対する感情が次第に変化していきます。

しかし、その後、権威ある競合雑誌から原稿依頼が来るものの、可寿子は新しいテーマが思い浮かばず、焦りを感じます。そんな中、彼女は地元の名士である川添菊子に助けを求め、菊子の友人のエピソードを素材として小説「再春」を完成させることに成功します。しかし、この物語には思いもよらない展開が待ち受けています。彼女の作品がどのように影響を及ぼすのか、また彼女の周囲の人々との関係がどう変化するのかが、物語の重要なテーマとなっています。

エピソードと背景

本作の執筆背景には、松本清張自身が経験した苦い思い出が色濃く反映されています。発表から4年後、彼は自身の過去の作品『春の血』について、他作と比べられる不快な思いを語っています。この作品は1958年に『文藝春秋』に掲載されたもので、彼は自身の作品が無断で他の文学に影響を受けたという批判に直面しました。実際には、彼はその作品に対する批評がされることに対して戸惑いを感じていたとされています。この背景が、『再春』に込められたテーマにも影響を与えています。

また、北村薫の小説「水源地はどこか」では、可寿子というキャラクターを批判する評論家が実在の人物をモデルにして描かれています。このように、『再春』は小説としての面白さだけでなく、松本清張が作家として直面した現実や人間関係の複雑さを映し出しています。

テレビドラマ化

1986年には本作がテレビドラマとしても映像化されており、関西テレビ制作、フジテレビ系列によって放送されました。主演は檀ふみが演じ、原作の持つ繊細な心情がどのように映像で表現されるのかに注目が集まりました。ドラマ化によって、より多くの人々がこの作品に触れる機会を得たことは、大きな意義があったと言えるでしょう。

このように、松本清張の『再春』は単なる短編小説にとどまらず、作家の内面、周囲の人々との関係、そしてそれが作品に与える影響を深く考察した作品として、高く評価されています。

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