写真等級

写真等級（Photographic Magnitude）

写真等級とは、天体から放出される光を写真フィルムや写真乾板に記録し、その画像の濃さや大きさなどに基づいて測定された明るさの尺度を指します。天体の明るさを示す等級の一種であり、特に高精度な光度計が天体観測で一般的に使われるようになる前の時代に、視等級を決定するための主要な手法として広く用いられていました。

歴史的背景と測定方法

近代的な天体観測において、個々の天体の正確な明るさを知ることは極めて重要です。しかし、高感度かつ波長ごとの感度特性が既知である光電測光器などの精密な機器が普及する以前は、天体の明るさを客観的に測定する方法は限られていました。そこで、カメラを用いて天体を撮影し、写真乾板上に写った天体の像のサイズや濃淡を測定することで、その天体の明るさを推定する方法が開発されました。これが写真等級の概念の基礎となりました。

写真撮影による等級測定は、人間の眼による観測に比べてより客観的で、暗い天体も記録できるという利点がありました。しかし、その精度は写真乾板の性能や現像条件、測定技術に左右されるものでした。

特徴と視等級との違い

写真等級の最も重要な特徴は、当時一般的に使われていた写真フィルムや写真乾板の分光感度特性に由来します。これらの感光材料は、人間の眼が最も感度が高い緑色や黄色付近の光よりも、紫外線に近い青色の光に対して特に高い感度を持っていました。一方、人間の眼は可視光線全体にわたってある程度の感度を持ち、特に黄色から緑色の範囲で最も敏感です。また、星の色（表面温度）によって放出する光のスペクトル分布は大きく異なります。温度の高い星は青白い光を強く放ち、温度の低い星は赤っぽい光を強く放ちます。

この感度特性の違いが、写真等級と人間の眼による視等級（通常、V等級や写真実視等級photovisual magnitudeなどとして区別されます）との間に系統的な差を生じさせました。

青い星: 青色光を強く出す高温の星は、写真乾板が高い感度を持つ青色領域で非常に明るく写ります。このため、写真等級は人間の眼で見た視等級に比べて数値が低く（つまり明るく）測定される傾向がありました。
赤い星: 赤色光を強く出す低温の星は、写真乾板の感度が低い赤色領域の光ではあまり明るく写りません。結果として、写真等級は視等級に比べて数値が高く（つまり暗く）測定される傾向がありました。

具体例として、赤色超巨星であるいて座KW星は、その強い赤色光のため、写真等級が11.0等級から13.2等級と比較的暗い値で観測されることがあります。これに対し、人間の眼で捉えられる視等級ではおおよそ8.5等級から11等級程度と、写真等級よりもかなり明るく観測されることが知られています。この例は、写真等級が天体の色温度の影響を強く受けることを明確に示しています。

記号

写真に基づいて測定された視等級は、通常 mpg (photographic magnitude)という記号で表されます。同様に、写真測光によって得られた天体の絶対等級は Mpg と表記されます。

現代の天体観測では、特定の波長帯のみに感度を持つフィルターと組み合わせたCCDなどの電子検出器を用いた精密な測光が主流となり、写真等級という概念が直接用いられる機会は少なくなりました。しかし、過去に蓄積された膨大な写真乾板のデータは、変光星の研究などにおいて今なお貴重な情報源となっています。

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