出前コンサート

矢野顕子の「出前コンサート」：音楽を地域へ届ける革新的な試み

「出前コンサート」は、音楽家・矢野顕子が始めたコンサート企画であり、その名を冠したビデオとライブアルバムも制作されました。この企画は、コンサートホールのような特別な場所だけでなく、地域の公民館や学校など、より身近な場所へ音楽を届けるという、当時としては画期的なものでした。

今日、「出前コンサート」という言葉は、音楽専用の会場で行われる通常のコンサートとは異なり、地域住民の要請に応じて演奏家が出向いて行うコンサートの代名詞として広く使われています。

企画としての「出前コンサート」

矢野顕子の「出前コンサート」は、ピアノが1台あればどこへでも出向き、商業的な興行主ではない市民グループや個人、学校などの依頼に応じてコンサートを行うというものでした。1982年10月に茨城県水戸市からスタートし、1990年代後半に一時中断があったものの、2010年頃まで続けられました。この企画は、矢野に歌詞を提供していた糸井重里の「ピアノをかついで出前したら？」というアイデアから生まれ、「出前コンサート」という名前も糸井重里が名付け親です。

ビデオとライブアルバム

ビデオ『出前コンサート』は1987年に発売され、その後DVD（2001年）、ブルーレイ（2012年）としても再発されました。このビデオは、1987年5月に長野県松本市と伊那市で行われた「出前コンサート」の映像を元に制作されています。映像は立花ハジメが担当し、単なるライブビデオではなく、ビデオ・アートのような実験的な映像作品となっています。

ライブアルバム『出前コンサート』は1994年7月21日に発売されました。これは、上記のビデオのサウンドトラックをリマスタリングしたもので、収録曲はビデオと同じです。演奏はすべて矢野顕子によるピアノ弾き語りで、伴奏は一切ありません。録音状態は必ずしも完璧ではなく、観客の赤ちゃんの泣き声なども収録されていますが、それもまた「出前コンサート」の雰囲気を伝える要素として、あえてそのまま収録されています。

収録曲

以下は、ビデオとライブアルバム共通の収録曲です。

1. てはつたえる→てつだえる (作詞・作曲：矢野顕子)
2. LISTEN TO ME, NOW (作詞・作曲：橿渕哲郎) - 橿渕哲郎のカバー
3. 夏なんです (作詞：松本隆　作曲：細野晴臣) - はっぴいえんどのカバー
4. 愛がたりない (作詞・作曲：矢野顕子)
5. ふりむけばカエル (作詞：糸井重里　作曲：矢野顕子)
6. COLOURED WATER (作詞：矢野顕子・菊池真美　作曲：矢野顕子)
7. 東風 (作詞：矢野顕子　作曲：坂本龍一) - イエロー・マジック・オーケストラのカバー
8. HELLO THERE (作詞・作曲：矢野顕子)
9. 花のように (作詞・作曲：矢野顕子)
10. 青い山脈 (作詞：西条八十　作曲：服部良一) - 藤山一郎のカバー
11. ひとつだけ (作詞・作曲：矢野顕子)

「出前コンサート」は、音楽をより身近なものにし、地域社会とのつながりを深めるという、矢野顕子の音楽に対する真摯な姿勢を示すものでした。その記録であるビデオとライブアルバムは、今もなお多くの人々に愛され続けています。

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