出口康夫

出口康夫の哲学と研究

出口康夫（でぐちやすお）は1962年に生まれた日本の哲学者で、現在は京都大学大学院文学研究科の教授と京都哲学研究所の共同代表理事を務めています。彼は近現代西洋哲学やアジアの分析哲学を専門に研究しており、特にカント哲学や科学的実在論、さらには東アジアの仏教思想まで広範にわたります。出口は、自己観を「われわれとしての自己（Self-as-We）」という新たな視点で提唱し、個人主義を超える哲学的視点を展開しています。彼の研究には、確率論、統計学、道元思想、京大哲学派の哲学が含まれ、これらのテーマに基づいて「できなさ」に基づく人間観・社会観を形成しています。

彼は1970年代に大阪市で誕生し、京都大学の文学部から同大学院を修了し、1996年に「超越論的実在論の試み」で文学博士の学位を取得しました。以降、名古屋工業大学や京都大学で教鞭を取ってきました。

出口の研究は、博士論文におけるカント研究を出発点とし、カントの超越論的観念論と実在論を対比させたり、それらから新しい価値観を見出そうとしています。特に、彼の見解によれば、カントの実在論は西洋哲学の枠を越えて新たな光を当てるものであり、それを通じて人間の存在意義や道徳的要請についても考察しています。

価値提案としての哲学

出口は哲学を「価値提案の学問」と位置づけ、現代社会において期待される哲学の役割を強調しています。科学技術の発展がもたらす成果が必ずしも人々の幸福や社会の調和に結びつかないことが多い現代、彼は新たな「価値」を見出すことが哲学の使命であると考えています。

彼が共同代表理事を務める京都哲学研究所では、21世紀は「価値の世紀」であると位置づけ、複雑化した世界において多様な価値観を受け入れ、共生していくための哲学的な提言を行っています。また、価値多層社会の実現を目指し、さまざまなネットワークを構築しながら、新しい社会インフラの価値提案を行っています。

「われわれとしての自己」と根源的できなさ

出口康夫が提唱する「われわれとしての自己」は、個人主義的な視点を超えた、新しい自己観を提示するものです。彼は、全体性や身体性を強調し、自分一人の力では実現できない存在としての自己を考えています。これは、個人がではなく「われわれ」としての存在を考える新たな哲学的枠組みであり、多様なエージェントとの関係性の中で「自己」は形成されるという視点を持っています。

この自己観は、出口が「根源的できなさ」と名づけたテーゼに基づいています。東洋思想に根ざしたこの観点は、個人の資質や行動がそのまま評価されるのではなく、周囲の存在との相互作用によって成り立つという考え方です。彼はこの考え方を通じて、現代の個人主義的な価値観への挑戦を行っています。

産業界との連携

出口は学問の枠を超え、産業界との連携にも積極的です。日立京大ラボやNTTとの共同研究を通じて、社会的な課題や倫理的視点から見た時代の先端を切り開く努力をしています。また、彼の提唱する「Self-as-We」は、NTTの「サステナビリティ憲章」にも採用されており、実社会での影響力を強めています。

出口康夫の活動は、哲学という枠を超えて社会のさまざまな側面と交わりながら、価値のある提案を持続的に生み出すことを目指しています。彼の洞察や研究は、現代においてどのように私たちが存在し、何を目指していくべきかを問い続けています。

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