切り髪

切り髪（きりかみ）

江戸時代後期、主に格式ある武家の後家（こうけ）が、夫の死を悼み服喪する期間に結ったとされる独特な女性の髪形です。「切り髪」の名が示す通り、この髪形の最も特徴的な点は、長く伸ばした後ろ髪を一定の長さに切り揃えることにあります。

古くからの垂髪（すべしがみ）の系統に連なる髪形とされており、髷（まげ）を結い上げて華やかな形を作る、当時の一般的な結髪とは一線を画します。正面から見た時の形は、当時の女性の結髪に見られる前髪（まえがみ）や側頭部の鬢（びん）、そして結い上げの根元にあたるつと（たぼ）といった部分は整えられますが、後ろ髪が短いため、そこに髷が存在しません。

髷がないことによって、その見た目はあたかも元結（もとゆい）で一つにまとめた垂髪（通称ポニーテール）を短く切り詰めたような印象を与えます。短く切り揃えられた後ろ髪は、髷のようにまとめて固定するのではなく、その根元を一本または数本の組紐（くみひも）で巻き、そのまま自然に垂らすように処理されました。この組紐の色や素材にも、身分や喪の期間に応じた決まりがあったと考えられます。

切り髪は故人を偲び、悲しみに暮れる時期に結われた髪形であるため、装飾は極力控えられました。華美な簪（かんざし）や笄（こうがい）といった髪飾りは一切用いられず、実用的な櫛（くし）がわずかに使われる程度でした。これは、派手な装いを避けることで、故人への敬意と喪に服す気持ちを表すためです。

一口に切り髪と言っても、実は様々な形があったとされますが、今日一般的に知られているのは、歌舞伎などの芝居で後家役の女性が結っている、比較的様式化された形です。この髪形は、視覚的に後家の身分と喪中であることを観客に伝える役割を果たしました。このように、切り髪は単なる髪形ではなく、結う人の身分、年齢、そして人生の特定の時期、特に故人への追悼という深い意味合いを持つものでした。

質素でありながらも、武家の女性としての品格を保つこの髪形は、江戸時代における女性の生活様式や社会的な役割、そして死生観の一端をうかがい知る手がかりとなります。今日では日常生活で見られることはありませんが、歴史的な資料や舞台を通じて、その姿を見ることができます。

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