列車選別装置

列車選別装置（れっしゃせんべつそうち）は、走行中の列車が自身の種別情報（列車種別番号など）を地上設備へ送信するためのシステムです。「列選（れっせん）」とも呼ばれます。

この装置は、車両側に備え付けられた種別設定を行う列選設定機、信号を送り出す車上送信機、そして線路に設置された列選車上子を通じて機能します。地上側には、車両からの信号を受け取り、列車の種別番号を識別するための地上子が設けられています。

鉄道事業者によって、列車選別装置のシステム上の位置づけや機能は異なります。地上で受信された列車種別情報は、さまざまな場面で活用され、鉄道運行の安全性や効率性の向上に貢献しています。

主な用途としては、以下のようなものがあります。

踏切制御：列車種別に応じて踏切の遮断タイミングを調整します。例えば、通過列車の場合は早期に遮断を開始し、停車列車の場合は駅停車による長時間遮断を避けるために、列車が駅に近づいてから遅めに遮断するのが一般的です。これにより、踏切での待ち時間の最適化が図られます。鉄道に関する技術基準では、踏切道の遮断完了から列車が到達するまでの時間は、通常20秒、最低でも15秒を確保することが求められています。

信号・進路制御：特定の列車に対して、地上側の信号機に特別な信号（例：高速進行を示す信号）を表示させたり、分岐器を自動的に制御して適切な進路を構成したりするために使用されます。京成電鉄の成田空港線（成田スカイアクセス線）では、高速で走行する列車に対し、条件が整った場合に最高速度での進行を許可する信号が現示される際にこの情報が利用されます。また、新幹線においては、ATC（自動列車制御装置）システムが、列車選別装置から得た情報に基づき、その列車に応じた最高速度での速度制限指示を出すことがあります。

停車駅通過防止：駅に停車する必要がある列車が、誤って減速せずに接近した場合に強制的にブレーキをかける装置と連動して使用されます。これは、停車列車にのみ装置を作動させるために列車種別を選別する必要があるためです。京王電鉄のTNS（Train Navigation System）や、阪神電気鉄道の一部駅手前に設置された「駅通過防止装置」などが知られており、ATS（自動列車停止装置）と連携して動作するシステムもあります。

旅客案内：駅のホームに設置された発車案内表示器や、自動放送システムを制御するために列車種別情報が利用されることがあります。これにより、利用者は正確な運行情報を得ることができます。

国鉄・JRにおける導入例

かつての国鉄やJRにおいても、列車選別装置が導入されていた例があります。

東北本線黒磯駅：黒磯駅は、直流と交流の地上切換方式を採用していたため、すべての列車が停車する必要がありました。しかし、1968年の東北本線全線電化時のダイヤ改正で、一部の特急列車を通過させる必要が生じたことから、地上切換設備を残しつつ通過用の設備を整備し、通過列車に列車選別装置を搭載して対応しました。これは、交直流両用車両の開発・普及以前の技術的背景や、貨物列車の運行上の制約などが影響していました。

中央線快速：国鉄時代の中央線快速区間でも使用されていました。これは、通勤電車から特急、貨物列車まで多様な種別が混在し、高密度な運転が行われていたため、特に踏切の遮断時間を列車種別に応じて調整する目的で利用されていました。国鉄分割民営化後も一部で使用されましたが、ATS-Pシステムの導入に伴い、列車選別装置の機能はATS側で担われることとなり、廃止されています。

私鉄における導入例

私鉄各社でも列車選別装置は広く導入されており、事業者ごとに独自の名称や方式が採用されています。地上側での列車種別表示が行われる事業者もあれば、そうでない事業者もあります。

京成電鉄：「緩急行選別装置」という名称で使用されています。副本線や折返し設備がある駅での出発信号機操作に連動して使用され、出発信号機の下に1から8までの数字で種別が表示されるのが特徴です。各駅には対応表が掲示されており、表示された数字によってその区間での走行速度の目安が示されます。この装置は最大8種類の種別に対応しますが、一部の線区には設置されていません。

京浜急行電鉄：「急緩行選別装置」が導入されています。出発信号機近くの「列車種別表示灯」には種別を示す一文字（例：「特」「急」「普」など、通過駅では「通」）が表示され、駅手前の「列車選別確認灯」は停車・通過可能をランプの点滅・点灯で知らせます。京急ではCTC化が進んでいない駅が多く、主要駅の信号扱い所での設定が中心となります。種別表示がない状態では駅を通過できません。

相模鉄道：列車からの情報で踏切制御や駅の自動放送制御に利用されます。出発信号機付近にLED式の「種別表示器」があり、駅手前には停車すべき場合に点滅する「停止指示表示灯」が設置されています。ATS-Pと連携した誤通過防止機能も有しています。

東急電鉄：大井町線の二子玉川～溝の口間延伸時に設定された「急緩行選別装置（B・G各停型選別機）」があります。これは、田園都市線に乗り入れる列車に、二子新地・高津駅に停車する青各停（B）と通過する緑各停（G）が設定されたため、これを選別し、ポイント切り替えなどに利用されています。高架区間であり、踏切制御への利用はありません。

京王電鉄：列車番号に基づき、駅の信号制御に利用されます。営業列車は走行区間に応じて「L」「準」「急」「区」「快」「普」などの記号が現示されます。次停車駅が隣接駅や終着駅の場合、また一部の踏切がない区間では選別が行われません。ATS導入後は、列車選別装置の機能はATSの一部として統合されています。

小田急電鉄：一部の駅の出発時や進入時において、主信号機の下にある「急緩行選別表示器」で種別を表示します。二つのランプが点灯すれば「急行」（通過）、片方が点灯すれば「緩行」（停車）を示します。この選別情報が有効な区間が表示器の下に掲示されている場合もあります。誤通過防止のため、停車列車は出発信号機が停止現示となり、通過列車は進行現示となるまで場内信号機が停止現示となります。

西武鉄道：
旧装置として1967年に導入された「急緩行列車選別装置」があります。これは踏切警報時間の均一化や中間駅での誤通過防止を目的とし、列車種別番号を車上子から地上へ電波で伝送する方式でした。運転士が送信器で種別を設定し、駅のチェック装置で設定の確認を行う機能も備えていました。無信号の場合は安全側として最速列車として扱われるシステムでした。
旧装置の老朽化や運行状況の変化に対応するため、2000年代前半に「列車情報装置」に更新されました。「列情」と略されます。トランスポンダとテレメータを用いた高度な通信を行い、列車番号や種別だけでなく、行先駅、車両数、ドア数、ATCの有無など多岐にわたる情報を地上へ伝送します。これにより、踏切制御や誤通過防止に加え、進路チェック、駅の案内表示器、さらには運行情報アプリへの情報提供など、多様な用途に活用されています。設定は運転台の列車情報設定器で行われ、運行管理システムとの連携により自動化が進んでいます。

阪神電気鉄道：「列車種類選別装置」を使用しています。始発駅で運転台のボタン（A, N, E, K, S, L, 回など）で種別を設定します。この情報は駅での接近放送や踏切の遮断時間制御に利用されます。信号機直下での表示はありませんが、場内信号機のない駅手前には、停車列車に対して「S」が点滅する「駅通過防止装置（列選S標）」があり、誤通過防止に役立っています。阪神車両だけでなく、直通運転を行う山陽電気鉄道や近畿日本鉄道の一部の車両にも搭載されています。

* 山陽電気鉄道：出発信号機や場内信号機の直下に列車種別が表示されます。直通特急や山陽特急は「ト」、S特急は「エ」、普通車は「フ」と表示されます。阪神特急やS特急の停車区間内では「フ」と表示されるなど、阪神線との直通にも対応した表示が行われています。

列車選別装置は、鉄道の安全性と効率性を支える上で重要な役割を担う担っており、各社の運行形態やシステム要件に合わせて進化、歴史的経緯に応じて様々な進化を遂げています。

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