初恋 (2006年の映画)

中原みすずの同名小説を原作に、2006年に公開された日本映画『初恋』は、昭和43年に世間を震撼させた三億円強奪事件に、大胆なフィクションを織り交ぜた青春ドラマです。白バイ警官に扮して事件を実行した犯人が、もし孤独な一人の女子高生だったとしたら？　学生運動が高まりを見せていた1960年代後半の時代背景を色濃く反映させながら、その女子高生の複雑な境遇と、彼女が出会った仲間たち、そして初めて知る「初恋」の行方が描かれます。

物語の主人公は、母親が家を出てしまい、親戚の家に預けられて育った高校生のみすず。心に孤独を抱える彼女は、ある出来事をきっかけに、消息を絶っていた兄リョウから手渡されたマッチを頼りに、新宿のジャズ喫茶「B」へと足を踏み入れます。そこには、リョウを含む個性的な若者たちが集まっていました。彼らはみすずに「面接」と称して素性を尋ね、子ども扱いする者もいましたが、「大人になんかなりたくない」という彼女の言葉に何かを感じ取り、仲間として受け入れます。みすずは兄妹であることを隠したまま、「B」に入り浸るようになります。

「B」に集まる若者たちは、それぞれが社会や時代の波にもまれ、悩みを抱えていました。兄のリョウは女性関係にだらしなくヒモのような生活を送る一方で、ユカは劇団で活動しながらも家庭環境やリョウとの関係に苦悩していました。テツとヤスは暴力やドラッグに明け暮れ、タケシは小説家を目指しています。中でも大学生の岸は、冷静でどこか冷めた態度をとることが多く、「つまらない男」と見られていましたが、みすずは彼に特別な感情を抱き始めます。

権力への漠然とした反発心を内に秘めていた岸は、デモに巻き込まれて警官に暴行され負傷した仲間たちの姿を目にし、ある計画を着々と温めていました。彼はみすずにバイクの運転を教え、その計画を打ち明けます。それは、かの三億円強奪事件でした。自分を必要としてくれた岸のために、みすずはその危険な計画への協力を決意します。

そして1968年12月10日、みすずは白バイ警官に扮して三億円の強奪を見事成功させます。世間は犯人を英雄視する中、みすずは岸に「もうひとりは嫌だ」と、一人ではないことを願う気持ちを伝えます。しかし、事件後に強奪した現金を添えて犯行声明を送った件が、政治家である岸の父親によって揉み消されたことで、岸は忽然と姿を消してしまいます。みすずは岸が紹介してくれたアパートで身を隠しながら、彼との再会を待ち続けます。

その後、リョウはリンチによって命を落とし、みすずは兄の死後、その隠された優しさに気づきます。病院に駆けつけた実母に名乗ることもできず立ち去るみすず。ある日、アパートで岸が残した詩集を手に取った彼女は、そこに書き込まれた一文を見つけます。「B」で初めて出会った日に、岸がみすずに恋をしたという告白でした。その言葉を読み、みすずは堰を切ったように涙を流します。

月日が流れ、みすずは一人、新宿の街を歩きます。「B」の仲間たちの多くは若くして世を去り、岸も行方不明のまま。強奪された三億円は一円も使われることなく、事件は時効を迎えていました。

主人公みすずを演じるのは宮﨑あおい。共演には小出恵介が岸役を務め、宮﨑あおいの実兄である宮﨑将がリョウ役で兄妹役を演じている点も注目です。監督は塙幸成が務めました。主なロケーション撮影は福岡県北九州市で行われました。主演の宮崎あおいは、原作の中原みすずと面会した際に、この物語が「実話」だと強く感じたというエピソードも残されています。

もう一度検索