別所引き抜き事件

別所引き抜き事件

別所引き抜き事件（べっしょひきぬきじけん）は、1946年から1949年にかけて発生した日本プロ野球の投手・別所毅彦（当時別所昭）に関する移籍騒動である。この事件は、南海ホークスのエースであった別所が、球団の待遇に不満を抱え、読売ジャイアンツと絡む形で起こった。ジャイアンツは当時、優勝を狙って選手補強を図っており、この背景が事件をさらに複雑にした。

別所の不満

別所は1946年に19勝、1947年には30勝を記録し、南海ホークスの主要な選手として名声を確立した。しかし、彼の年俸は他球団のトップ選手と比べて著しく低かった。具体的には、彼の同僚である真田重男（太陽ロビンス）は別所の約2倍の報酬を得ており、巨人の青田昇に至ってはその倍以上だった。別所は何度も球団に待遇改善を訴えたが、南海からは「予算の関係で難しい」という理由で却下され、その結果、不満は募る一方であった。

巨人との接触

別所は、東京・銀座の料亭「小松」の娘と交際しており、結婚を前提に話が進んでいた。ここで、女将が読売新聞社の武藤三徳に相談し、別所とジャイアンツの関係が少しずつ見えてきた。武藤はジャイアンツの監督三原脩に別所の素質を聞いたところ、彼を高く評価する発言があった。その後、別所が南海に対する待遇の不満を武藤から知られ、少しずつ巨人への移籍の可能性が高まった。

1948年のシーズン終了間際、別所は武藤や副社長の安田庄司との会談で、両者から契約金額の提示を受け、一軒家も用意される約束がされた。南海での契約交渉が進み、別所は彼が望んでいた条件を求めたが、結果的に南海は年俸の増額を拒否。これを受け、別所は「巨人と同じ条件を提示してくれれば南海に残る」と申し出たが、南海の球団代表松浦は無視し、それが別所の移籍決意を固める引き金となった。

移籍問題の発展

1948年12月1日、新聞で「別所 巨人入りを表明」と報じられ、南海は慌てて別所に戻るよう説得するが、別所は既に巨人との契約が決まっていると主張。南海は日本野球連盟に訴を起こし、一方で別所も連盟に訴えていた。南海の主張は、別所の巨人との契約がシーズン中に行われたことを指摘するも、別所は後に自身の責任問題を避けたり、巨人の強引な引き抜きを強調することで状況を有利に持っていく策略を取った。

結果と影響

連盟統制委員会は、南海のルール違反を認定し、巨人に対して制裁金を科す裁定を下したが、別所は南海との契約を拒否し続け、最終的に巨人と契約を結ぶこととなる。結果的に、別所は巨人へ移籍し、その後も同チームのエースとして活躍、1949年から1961年の間に10度のリーグ優勝と5度の日本一を達成した。

この移籍事件は日本プロ野球史において非常に重要な出来事として記憶されており、ルールや慣例の見直しに影響を与えることになる。特に、この事件をきっかけに作成された野球協約により選手の保有権が明確化され、後の選手移籍問題を大きく変えることに繋がった。別所本人は、後にこの事件が江川事件と比較されることに対し不快感を示した。江川事件と異なり、彼の時代には明確なルールが存在せず、多くの不透明さがあったからである。

このように、別所引き抜き事件はプロ野球における選手の権利や契約に関しての重要なターニングポイントとなったのである。

もう一度検索