利賀そば

利賀そば（とがそば）

利賀そばは、富山県南砺市、特にかつて利賀村であった山間部を中心に古くから親しまれている郷土料理のそばです。このそばの最大の特徴は、つなぎをほとんど、あるいは全く使用しない「そば粉100%（十割）」に近い製法にあります。そのため、一般的なつなぎを使ったそばに比べて麺は切れやすく、独特のぼそぼそとした食感を持っています。

歴史と起源

利賀そばの起源は、冬場の農閑期に集落の人々が互いの家を訪ね合い、その年に収穫したばかりのそばの実を挽いてそばを打ち、共に味わうという「ごんべ」と呼ばれる古くからの風習にあると言われています。厳しい冬を乗り越えるための保存食としてのそばが、共同体の中での大切な食文化として育まれてきた背景があります。

当初の製法は、そば粉100%につなぎとして玉子を用いるものが主流であったとされます。しかし、つなぎが少ないことによる麺の切れやすさや、その独特の食感に対する個人の好みが分かれることから、現在では地域内のそば店がそれぞれ独自の配合やつなぎの工夫を凝らし、多様な利賀そばを提供しています。それでもなお、つなぎを極力抑えるという伝統的なスタイルが多く受け継がれています。

地域活性化への取り組み

近年、この伝統的な「ごんべ」の精神を受け継ぎ、「南砺利賀そば祭り」として大規模な地域イベントが開催されています。かつての素朴な集まりが、郷土の食文化を広く紹介し、多くの観光客を呼び込むための地域活性化の大きな柱へと発展しました。祭りでは、地元で採れたそばを使った手打ちそばの提供はもちろん、そば打ち体験など様々な催しが行われ、地域住民と来訪者との交流の場となっています。

利賀そばの郷

利賀そばの魅力を集約的に発信し、体験の機会を提供することを目的に、複合施設「利賀そばの郷」が整備されました。これは利賀村制100周年記念事業の一環として計画され、1989年（平成元年）10月20日に開村しました。開設当初は、国内初のそば専門資料館である「そばの館」をはじめ、そば料理を提供する「ごっつお館」、そば打ち体験ができる「そば打ち館」など、複数の施設で構成され、利賀村長の直轄組織であった利賀国際山村文化体験村によって管理運営が行われていました。

その後も施設の拡充は進められ、1992年（平成4年）4月27日には村内の古民家を移築した「うまいもん館」が、同年夏には新たなそば工房が設けられました。1997年（平成9年）7月28日には、隣接する民家を改装した「雪乃床屋」も開館し、2004年頃には敷地内に3軒のそば処と2軒のそば打ち体験施設が整備されるなど、一大交流拠点としての機能が強化されました。

しかしながら、施設の運営は必ずしも順風満帆ではなく、「ごっつお館」と「そば打ち館」は経営難のため2017年（平成29年）に閉館。国内初の資料館として貴重な存在であった「そばの館」も、2021年（令和3年）3月31日をもってその歴史に幕を閉じることとなりました。閉鎖された一部の施設、具体的には「ごっつお館」と「そば打ち館」の建物は、その後2024年（令和6年）10月17日に南砺市内の建設業者である藤井組に1円で売却されたことが報じられています。同社はこれらの建物を、自社の営業拠点や資材保管場所として利用する意向を示しており、利賀そばの郷の一部施設のあり方は新たな局面を迎えています。

利賀そばは、この地域の厳しい自然環境と人々の知恵、そして共同体文化が育んだ独特の食遺産であり、現在も地域振興の重要な要素として位置づけられています。

もう一度検索