利賀のはつうま

利賀のはつうま（とがのはつうま）

富山県の五箇山地方に位置する南砺市利賀地域に伝わる「利賀のはつうま」は、江戸時代後期にあたる文化年間からおよそ200年にわたり受け継がれてきた、子供たちによる新春の伝統行事です。

この行事は、毎年1月上旬の週末2日間にわたって行われます。かつては旧暦の2月最初の午の日に行われ、その後1月15日に固定されましたが、現在の日程に変更されたと考えられています。子供たちが各家々を回り、五穀豊穣や家内安全、そしてかつて盛んだった養蚕の振興を祈願して舞や唄を奉納します。

歴史と実施地区の変遷

かつては利賀村の上村、下村、岩渕の3つの地区で広く行われていました。しかし、地域の過疎化と少子化が進んだため、1999年（平成11年）からは上村地区のみで伝統が守られています。

「利賀のはつうま行事」は、その歴史的・文化的な価値が認められ、1982年（昭和57年）12月21日に国の選択無形民俗文化財に選ばれました。さらに、2004年（平成16年）7月16日には富山県の無形民俗文化財に指定されています。また、2006年（平成18年）には「とやまの文化財百選（とやまの祭り百選部門）」にも選定されています。

特筆すべきは、この行事が小学生の児童のみによって行われる点です。このような形で文化財に選択されている事例は、全国的にも非常に珍しいとされています。

行事の内容

行事には、小学1年生から6年生までの男女児童が全員で参加します。子供たちは「神主」「馬」「太鼓」「歌唄い」「俵ころがし」といった役割に分かれ、順番に並んで地区内の全ての家を訪ねます。

家の中には、現代では長靴のまま上がり込みます（かつては藁製の雪沓を使用していました。畳の間にはゴザを敷いて対応します）。

まず神主役の子供が、蚕の神様が描かれたお札を家の中心的な柱に立てかけ、祝詞を唱えます。次に、神主と交代するように馬役の2人が登場します。彼らは藁でできた尻尾のような幕に入り、一人が藁で作られた馬の頭を、もう一人が尻尾を持って前に進みます。太鼓のリズムに合わせ、歌唄いや神主による囃し唄に合わせて、馬の頭としっぽを振りながら勇壮な舞を披露します。「乗り込んだ乗り込んだ、お馬が乗り込んだ…」という出だしの囃し唄に続き、地域によって歌詞は少しずつ異なります。

馬の舞が終わると、「俵ころがし」の役割の子供が登場します。籾がらが一斗（約18リットル）分詰められた俵に縄を付けたものを、重そうに引きずるような仕草で家の中を進みます。これは五穀豊穣を願う所作とされています。その後、火の用心や福の神と書かれた守り札を家の中に撒いて回ります。

一連の祈願が終わると、家の人はお礼としてお菓子やお餅、みかん、祝儀などを子供たちに手渡し、子供たちは次の家へと向かいます。

かつて子供の数が多かった頃は、小学3年生から6年生までの男子のみで行われていました。しかし、1970年代からは1・2年生の男子も加わり、1980年代からは女子児童も参加するようになりました。神主役以外の衣装は、半纏に帯とズボン、頭には豆絞りの手拭いを鉢巻として使用します。なお、かつての下村地区では神主役はおらず、「すっとこ坊主」と呼ばれる役がいたとされています。

存続への課題と取り組み

前述の通り、利賀地域では少子化が深刻な問題となっており、行事の担い手である子供たちの確保が困難になっています。かつては最低5人の子供が必要とされていましたが、現在は他地区の児童に助っ人を依頼したり、中学校に進学した生徒に参加を呼びかけるなどして人数を維持しています。しかし、小学校の新入生が少ない状況は変わらず、行事の休止も検討せざるを得ない状況に直面したこともあります。

この伝統を守るため、現在は一人で複数の役割をこなしたり、高校生の参加を認めたり、太鼓演奏に録音音源を使用するといった、時代や地域の実情に合わせた柔軟な運用が検討されています。地域の代表者は、一度伝統を途絶えさせてしまうと復活が極めて困難になるという危機感を抱いています。文化庁も、選択肢が限られる現状においては、こうした柔軟な対応で行事の存続を探ることを容認しています。

小学生のみで受け継がれてきたこの珍しい伝統行事は、地域の人々の努力と、文化財としての価値を守ろうとする関係機関の理解を得ながら、未来への継承を目指しています。

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