刺青の男 (1968年の映画)

刺青の男

『刺青の男』（いれずみのおとこ、仏: Le Tatoué）は、1968年にフランスで公開されたコメディ映画です。監督はドニス・ド・ラ・パテリエールが務め、フランス映画界を代表する名優ジャン・ギャバンとルイ・ド・フュネスという、当時絶大な人気を誇った二人が初めて本格的に顔を合わせた作品として知られています。フランス国内では約321万人の観客を動員し、同年の年間興行成績で第8位となるヒットを記録しました。

あらすじ

物語の中心となるのは、抜け目のない画商フェリシアン・メズレと、背中にアメデオ・モディリアーニの貴重な刺青を持つ老退役軍人ルグランとの奇妙な関係です。メズレはこの刺青に莫大な価値を見出し、二人のアメリカ人画商との間で高額での売却契約を結びます。その後、彼はなんとかしてルグランの皮膚を手に入れようと画策します。メズレはルグランに対し、刺青の対価として彼の荒れ果てた旧家の修復を提案しますが、実はその旧家とは17世紀に建てられた由緒ある城であり、ルグランこそがその城の持ち主であるモンティニャック伯爵家の最後の子孫だったのです。刺青を巡る欲望と、古城に隠されたルグランの正体が明らかになるにつれて、事態は予想外の方向へと転がっていきます。

スタッフとキャスト

監督を務めたのはドニス・ド・ラ・パテリエール。脚本はアルフォンス・ブダールの小説「刺青の男ジェジェーヌ」を原作とし、パスカル・ジャルダンが脚色と演出を担当しました。製作総指揮はモーリス・ジャッカン、製作プロデュースはラファエル・ボーム、音楽はジョルジュ・ガルヴァランスが手掛けています。主演のジャン・ギャバンが退役軍人でありモンティニャック伯爵家の当主であるルグランを、ルイ・ド・フュネスが欲深い画商フェリシアン・メズレを演じています。その他、村の内装職人モーリス・ペロをポール・メルセー、アメリカ人画商をジョー・ワルフィールドとドナルド・フォン・クルツが演じるなど、個性豊かな俳優陣が脇を固めています。

製作を巡る背景とエピソード

本作は、フランス映画界の巨頭であるジャン・ギャバンとルイ・ド・フュネスを同時に起用するという、当時としては非常に注目度の高い企画でした。監督であるドニス・ド・ラ・パテリエールのインタビューによると、当初アルフォンス・ブダールによって書かれた脚本が存在しましたが、主演の二人がこれを揃って拒否したため、企画は一時頓挫の危機に瀕しました。監督は二人の俳優と個別に作品を撮ることも考えたそうですが、製作会社との契約では両名が出演することが必須であったため、周囲からの「この二人の共演は絶対に実現させるべきだ」という声に押され、最終的にパスカル・ジャルダンが新たな脚本を執筆することになりました。しかし、撮影が始まった時点でもジャルダンの脚本は完成しておらず、各シーンの台本は撮影日の直前に届けられるという、文字通り「自転車操業」の状態で製作が進められたという逸話が残っています。

また、二人の大スター、ギャバンとド・フュネスの関係性も注目されました。ド・フュネスの息子たちが記した著書によれば、以前の共演作『パリ横断』や『エプソムの紳士』の頃には、ギャバンはド・フュネス一家を別荘に招くなど家族ぐるみの親しい付き合いがあったといいます。しかし、『刺青の男』の撮影中、ある雑誌記者がド・フュネスにギャバンの好きな映画を尋ね、「全てです！」と答えた後、ギャバンに同じ質問を投げかけたところ、ギャバンが「ド・フュネスの映画は一本も見たことがない」と答えたことで、ド・フュネスはギャバンに対し距離を置くようになったと長男パトリックは回想しています。さらに次男オリヴィエも、撮影中にギャバンが演技以外の場面でほとんど笑わず、ド・フュネスが仕事のしにくさを漏らしていたと記しています。とはいえ、後に二人が撮影所で再会した際には、ド・フュネスは何事もなかったかのように振る舞ったとオリヴィエは述べており、両者の間にはプロフェッショナルな敬意があったようです。実際、ギャバンの死去後には、ド・フュネスが中心となって若手俳優を奨励する「ジャン・ギャバン賞」が設立されており、その後の交流が続いていたことを示しています。

ロケ地

本作の撮影は主に、フランスのドルドーニュ県で行われました。退役軍人ルグランの旧家である城として使用されたのは、ドンム近郊にあるサン＝ヴァンサン＝ル＝パリュエルのパリュエル城です。この城は近年所有者が変わり、改修工事が進められていますが、将来的には一般公開が予定されているとのことです。その他、パリのオルリー空港、ブーローニュ＝ビヤンクールのスタジオ、エッフェル塔が見えるシュレンヌの坂道などでも撮影が行われました。

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