前田伍健

前田 伍健

前田 伍健（まえだ ごけん）は、1889年1月5日に香川県高松市で生を受け、1960年2月11日にその生涯を閉じた、日本の川柳作家です。本名を久太郎といいました。

彼の父は画家である前田北水で、幼少期から絵画に親しむ環境に育ったことが伺えます。ペンネームとして使用した「伍健」という名は、故郷香川県にある五剣山に由来するとされ、当初は「五剣」、次いで「五健」と変化し、最終的に「伍健」に落ち着いたと伝えられています。

故郷の旧制高松中学校（現在の香川県立高松高等学校）を卒業後、伍健は愛媛県松山市に移り、現在の伊予鉄道にあたる会社に入社しました。会社勤めを続ける傍ら、彼は東京の著名な川柳家であった窪田而笑子（1867年〜1928年）の門を叩き、川柳の道を深めていきます。その才能は次第に認められ、「媛傘」や「番傘」をはじめとする全国各地の川柳雑誌で客員として作品を発表し、川柳界において確固たる地位を築きました。

また、伍健は絵画の才能も持ち合わせていました。父である北水から絵の手ほどきを受けたほか、日本画家である堂本印象や、水墨画家として知られる近藤浩一路といった高名な画家からも指導を受けています。こうした芸術的な素養は、彼の川柳作品にも豊かな感性として反映されていたことでしょう。

彼の川柳作家としての活動において、村上霽月（1869年〜1946年）との出会いは重要な転機となりました。霽月との交流を通じて、伍健は川柳の創作だけでなく、その普及活動にも力を入れるようになります。愛媛県における川柳文化の振興に大きく貢献し、後には愛媛県川柳文化連盟の初代会長という要職を務め、地域における川柳の発展に尽力しました。

第二次世界大戦後、前田伍健の川柳は思いがけない形で多くの人々に感動を与えました。山本耕一路（1906年〜2005年）が野球拳の興行において、伍健の詠んだ川柳を紙に書いて貼り出し、それを参加者に見せるという手法を用いたのです。この試みは観衆の心に響き、大きな反響を呼びました。この出来事を契機に、前田伍健は「本家野球拳」の家元を継承することとなり、さらに子規会顧問や愛媛県警察本部の講師といった、多岐にわたる役職も歴任しました。

川柳作家として、また教育者、文化の伝承者として、前田伍健はその多才な能力を活かし、故郷および愛媛県を中心に、日本の文化振興に多大な貢献を果たした人物と言えるでしょう。彼の残した川柳作品や、野球拳を通じたユニークな普及活動は、今なお多くの人々に記憶されています。

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