剣 (小説)

『剣』の概要

『剣』（けん）は、日本の作家三島由紀夫が1963年に発表した短編小説で、全7章から構成されています。この作品では、大学の剣道部を舞台に、部員たちの人間模様や、主将の苦悩と葛藤を通じて、剣道に対する情熱が描かれています。

あらすじ

物語では、大学剣道部の主将である国分次郎が主人公です。彼は誠実で強い武士を目指す青年であり、剣道に全力を注ぎ込んでいます。次郎を尊敬し、彼のようになりたいと願う一年生の壬生がいる一方で、同級生の賀川は次郎の姿勢に嫉妬し、彼との間に緊張関係があります。

次郎は審査での段位を持ちながら、連盟の査定を嫌がる姿勢が、周囲に重苦しさを与えています。この重い空気の中、剣道部の合宿が西伊豆で行われ、厳しい稽古と規律の元、部員たちは切磋琢磨します。

合宿の最終日に、次郎は苛酷な状況の中で生じた部員の小さな裏切りの中、自らの命を絶つことになります。次郎の死は、剣道に対する彼の献身を象徴するものであり、結果として彼が追求していた「剣」の道が持つ意味を深く考察させるものとなります。

登場人物

• - 国分次郎: この作品の主人公で、剣道部の主将。彼は美しい微笑を持ち、正義感が強い一方、家庭環境に悩まされて育ちました。
• - 賀川: 同級生であり、次郎に嫉妬を感じる剣道部員。次郎の強さに圧倒されつつも、彼に対抗しようとしています。
• - 壬生: 次郎を尊敬する一年生の部員。自身の未熟さに葛藤し、自らの立場を模索する若者です。
• - 木内: 剣道部の監督で、部員たちを見守る存在。彼の言うことは絶対的な命令とみなされています。

主題とテーマ

三島由紀夫は『剣』の中で、「心情」と「思想」をテーマにし、青年の純粋な心に迫ります。自身の存在意義や、周囲との関係に苦悩しながら剣道に取り組む次郎の姿は、読者に強烈な印象を与えます。物語を通じて表現される剣道の理想は、次郎の自己犠牲的な決意と、その終末的な選択によって浮き彫りになります。

評価についても、多くの研究者がこの作品を称賛しており、特に次郎の死によって生まれる「澄妙な透徹感」が作品全体を貫いていると指摘されています。三島自身が述べたように、「剣道を通じて描かれる心情の極致」は、この作品の魅力であり、圧倒的な緊張感をもたらしています。

映画化

『剣』は1964年に市川雷蔵主演で映画化されました。この際、原作にはない女性キャラクターが追加され、屋外の合宿などが描かれる一方で、情熱的な青年の姿勢は画面上でも強烈に表現されています。映画は公開直後から高い評価を受け、三島の文学と雷蔵の演技は視覚的にも共鳴し、強く印象に残る作品となりました。

総評

『剣』は単なる剣道部の物語ではなく、若者たちの生き様、葛藤、理想を追求する姿を描いた作品です。次郎の生と死を通じて、三島が提示する理念や価値観は、今なお多くの読者に深く響くものです。剣道に託された次郎のせつなさと美しさを理解し、感じることができる作品となっています。

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