剣の舞

剣の舞：バレエ『ガイーヌ』より

アラム・ハチャトゥリアン作曲のバレエ『ガイーヌ』から、最も有名な楽曲の一つである『剣の舞』。その躍動感あふれる旋律は、世界中で愛され続けています。本稿では、この名曲の魅力と、その誕生秘話、そして数々のアレンジについて掘り下げていきます。

誕生秘話：徹夜で作られた名曲

『剣の舞』は、1942年に作曲されたバレエ『ガイーヌ』の最終幕の楽曲です。当初は『ガイーヌ』の構成に含まれていませんでしたが、初演直前にクルド人のサーベル舞踊のシーンが追加されることになり、ハチャトゥリアンは急遽、この場面のための音楽を作曲することになりました。

伝えられるところによると、ハチャトゥリアンは徹夜で作業し、机を指で叩きながらリズムを考案。その結果、あの独特のリズムが誕生したと言われています。このエピソードは、彼の並外れた才能と、作品に対する並々ならぬ情熱を物語っています。

東洋と西洋の融合：独特の曲調

『剣の舞』の音楽は、野性的で精力的、そして独特の民族音楽的な要素を含んでいます。ハチャトゥリアンの祖国であるアルメニアやグルジア、レズギの民族音楽の影響が色濃く反映されており、東洋的な旋律と西洋的なオーケストレーションが見事に融合しています。この融合が、楽曲に強烈なインパクトを与え、世界中の人々を魅了する理由の一つと言えるでしょう。

予想外の成功と作曲者の複雑な心境

『剣の舞』は、ハチャトゥリアンの名を世界に知らしめる大きな要因となりました。しかし、皮肉にも、この曲だけが異常に有名になったことに対し、ハチャトゥリアン自身は複雑な心境を抱いていたようです。彼の弟子である寺原伸夫氏の証言によると、ハチャトゥリアンは「ミスター剣の舞」と呼ばれることを嫌がり、「こうなるならこの曲は書かなかった」と漏らしていたといいます。これは、作曲家としての彼のプライドと、作品全体に対する思いの深さを示唆しています。

多様なアレンジとカバー：音楽の枠を超えて

『剣の舞』は、単独の演奏やBGMとしてだけでなく、数多くのアレンジやカバーが制作されており、その人気は音楽のジャンルを超えています。

歌謡曲カバー:1979年には、尾藤イサオとドーンによる歌謡曲カバーが制作され、2004年には「伊集院光選曲 おバ歌謡」にも収録されています。
ピアノ編曲: ジョルジュ・シフラによるピアノ編曲は、その高度なテクニックが求められる難曲として知られています。
ロックバンドアレンジ: チープ・トリックのアルバム『蒼い衝動』の日本盤には、ロックバンドアレンジ版が収録されています。
ゲーム音楽: 音楽ファンタジー・ゆめ、そしてTHE ALFEE|THE_ALFEEのアルバム『CLASSICS II』でもアレンジ版が使用されています。

このように、『剣の舞』は、バレエ音楽の枠を超えて、様々な形で人々に親しまれ、愛されているのです。その人気は、作曲者のハチャトゥリアンの予想をはるかに超えたものであり、彼の音楽史における地位を確固たるものにしました。その一方で、作曲者自身の複雑な思いもまた、この名曲に深みを与えていると言えるでしょう。

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