劇団東演

劇団東演は、日本の演劇界において長い歴史を持つ劇団の一つである。その創立は1959年であり、俳優の相沢治夫氏が中心となり、演出家である八田元夫氏と下村正夫氏と共に設立された「東京演劇ゼミナール」を前身とする。この設立当初の活動体は、人間ドラマの深淵を描いたアントン・チェーホフの戯曲『できそこない』を記念すべき第一回上演作品として世に送り出し、劇団の確かな一歩を記した。

「東京演劇ゼミナール」として活動を展開した後、劇団はより一層の発展を目指し、1962年に現在の名称である「劇団東演」へと改称した。名称変更後の劇団の芸術活動は、設立メンバーでもある演出家の八田元夫氏と下村正夫氏が交互に主要な作品の演出を手がける体制で進められ、劇団独自のスタイルやカラーが形成されていった。両氏は劇団の初期から中期にかけて、芸術的な支柱としてその活動を支え続けた。

劇団の歴史において大きな転換期となったのは、1978年の出来事である。長年にわたり劇団を牽引してきた八田元夫氏と下村正夫氏が相次いでこの世を去った後、劇団は新たな活動の場を模索することとなる。そして、その新天地として選ばれたのが、東京でも有数の劇場街として知られる下北沢であった。劇団はこの地に移転すると同時に、自らの活動拠点となる小劇場「東演パラータ」を開場したのである。「東演パラータ」の開場は、劇団にとって物理的な拠点を得るだけでなく、より実験的で多様な演劇表現に取り組む機会をもたらした。この小劇場は、現在も劇団東演の主要な上演空間として、また地域における文化発信の場として重要な役割を担っている。

劇団の関連事業としては、かつて映画や放送分野における企画・制作を担う目的で設立された「株式会社ぱらーた企画」が存在していた。これは、劇団の演劇活動と並行して、映像メディアを通じた表現や収益事業を展開しようとする試みであった。しかしながら、この「株式会社ぱらーた企画」は現在では解散しており、既にその活動を終えている。

劇団東演は、その半世紀以上にわたる活動の中で、国内外の様々な戯曲やオリジナル作品を上演し、多くの観客に感銘を与えてきた。社会的なテーマや人間心理の探求に焦点を当てた作品が多いことも特徴の一つである。特に、劇団を代表する上演作品として高く評価されているものには、ロシアの文豪マクシム・ゴーリキーによる貧困層の人々を描いたリアリズム演劇の傑作『どん底』がある。また、毛利恒之氏による、戦争と平和、そして人間関係の機微を繊細に描いた『月光の夏-挽歌-』、さらにその物語をより身近に感じさせる朗読劇版『朗読劇「月光の夏」』も、劇団の重要なレパートリーとなっている。他にも、小松幹生氏作の、夢を追いかける若者の姿を描いた『翔べ!イカロスの翼』や、近石綏子氏作の、旅の終着駅を舞台にした人間模様を描く『楽園終着駅』なども、劇団東演の代表的な舞台作品として挙げられる。これらの作品群は、劇団が追求してきた芸術性や社会への問いかけの軌跡を示している。

劇団東演は、設立以来、演劇を通じて社会と向き合い、人間を見つめる活動を続けてきた。下北沢の東演パラータを拠点に、今後も多様な演劇表現を追求し、観客に感動と考える機会を提供していくことが期待される。

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