動脈血

動脈血

動脈血とは、肺でのガス交換を経て酸素を多量に含んだ血液を指します。生命活動を維持するために必要なエネルギーを生み出すためには酸素が不可欠であり、動脈血はこの酸素を全身の組織や細胞に供給する役割を担っています。

特徴

動脈血の最も視覚的な特徴は、その明るく鮮やかな赤色です。これは、血液中の主要な構成要素であるヘモグロビンが酸素と強く結合している状態を示す色です。一方、酸素を放出して二酸化炭素を多く含んだ血液、すなわち静脈血は、より暗い、あるいは黒っぽい赤色をしています。この色の違いは、血液の酸素飽和度を反映しており、医療現場などでも患者の呼吸状態や循環状態を判断する手がかりの一つとなります。

体内での循環経路

動脈血は、まず肺の毛細血管で酸素を受け取った後、肺から心臓へと戻ります。この際に流れる血管は、「肺静脈」と呼ばれます。左右の肺から集まった動脈血は、心臓の左心房に入り、続いて左心室へと送られます。

左心室は全身に血液を送り出すポンプ機能を担っており、強力な収縮によって動脈血を「大動脈」へと送り出します。大動脈は体内でも最も太い血管であり、ここから無数の動脈が分岐し、脳、心臓、筋肉、内臓、皮膚など、体の隅々にまで動脈血を供給します。各組織の毛細血管に到達した動脈血は、酸素や栄養分を周囲の細胞に渡し、代わりに細胞の活動によって生じた二酸化炭素や老廃物を受け取ります。この過程を経て、酸素を失い二酸化炭素を多く含んだ血液は静脈血となり、静脈を通って再び心臓（右心房）へと戻っていくのです。この全身を巡る血液の流れを「体循環」と呼びます。

用語の注意点

ここで、血管の名前である「動脈」「静脈」と、血液の種類である「動脈血」「静脈血」の定義の違いについて触れておく必要があります。

血管名: 心臓から血液が出ていく血管を動脈、心臓へ血液が戻ってくる血管を静脈と定義します。
血液名: 酸素を多く含む血液を動脈血、二酸化炭素を多く含む血液を静脈血と定義します。

この定義の違いから、通常、体循環においては動脈に動脈血が、静脈に静脈血が流れます。しかし、肺と心臓の間で行われる「肺循環」においては例外が生じます。

心臓（右心室）から肺へ向かう血管は、心臓から出ているため肺動脈と呼ばれますが、ここを流れるのは酸素化される前の静脈血です。
肺で酸素を受け取り、肺から心臓（左心房）へ戻る血管は、心臓へ向かっているため肺静脈と呼ばれますが、ここを流れるのは酸素化された後の動脈血です。

このように、「肺動脈に静脈血が、肺静脈に動脈血が流れる」という一見矛盾した現象は、血管名と血液名の定義の基準が異なることに由来するもので、理解する上で注意が必要な点です。

生命維持における重要性

動脈血による酸素供給は、脳をはじめとする重要な臓器の機能維持に不可欠です。動脈血の流れが滞ったり、酸素濃度が低下したりすると、細胞はエネルギーを効率的に作り出せなくなり、機能障害や細胞死を引き起こす可能性があります。心不全、呼吸不全、貧血など、動脈血の循環や組成に影響を与える疾患は、全身に重大な影響を及ぼすため、動脈血の状態を適切に保つことは健康管理において極めて重要です。

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