勝原文夫

勝原 文夫（かつはら ふみお）

1923年9月20日から2017年4月24日まで生きた勝原文夫は、日本の風景学および景観論の重要な研究者であり、農業経済学や農学の専門家、さらには俳人としても多岐にわたる活動を行った人物です。

生涯と学歴

東京府（現在の東京都）に生を受けた勝原は、東京府立第六中学校（現在の東京都立新宿高等学校）を卒業しました。一年間の浪人期間を経て旧制東京府立高等学校に進学しましたが、在学中に第二次世界大戦が激化し、学徒出陣により輜重隊へ入隊することとなりました。終戦後の復学を経て府立高校を卒業し、東京大学経済学部に入学。大学では農業経済学を深く学びました。

職歴と功績

1948年に東京大学を卒業後、設立間もない国立国会図書館調査局に入局。以来39年にわたり在職し、1987年に退職を迎えるまで、日本の知の基盤整備に貢献しました。

国立国会図書館を退職した同年、長年の農村風景論に関する執筆活動が評価され、第8回国立公園協会田村賞を受賞する栄誉に浴しています。この賞は、日本の自然保護や景観保全に貢献した人物に贈られる権威ある賞です。

退職と同じ1987年には、新設された徳山女子短期大学（現在の周南公立大学女子短期大学部）に教授として迎えられ、教壇に立ちました。1991年からは同学の学長を務め、教育分野でもその手腕を発揮しました。1997年に大学を退いてからは、自宅に日本農村風景研究所を設立し、自身のライフワークである農村景観に関する研究と普及活動を継続しました。

農村景観研究とその他の活動

勝原は、日本の農村が持つ独特の美しさや文化的な価値に深く着目し、それをどのように保全し、未来へ継承していくべきかという視点から、農村景観論を展開しました。単なる風景の美しさだけでなく、農業が生み出す景観、その経済的・社会的な側面まで含めた包括的な視点が特徴です。また、国の施策である「日本の棚田百選」の選考委員も務めるなど、日本の美しい農村景観の保全・継承にも実践的に貢献しました。

俳句活動

研究者・教育者として活躍する傍ら、俳人としても活動しました。俳句創作は1971年頃に始め、翌1972年からは著名な句誌『春燈』への投稿を開始しました。1980年以降、これまでに3冊の句集を世に送り出しています。2005年には、『春燈』誌上の、主宰などが選んだ秀句を掲載する自選作品掲載欄である「燈下集」への入選を果たしており、俳人としての評価も確立していました。

主な著作

句集
『ペン皿―勝原文夫句集』（ふらんす堂、2008年）
その他著書
『農の美学―日本風景論序説』（論創社、1979年）
『農村景観について』（国土庁地方振興局農村整備課、1980年）
『村の美学―原風景と修景の座標』（論創社、1986年）
『環境の美学―ムラの風景とアメニティ』（論創社、1999年）
訳書
* カントリーサイド・コミッション著、農村開発企画委員会編『イギリスの農業景観―保全と創造』（論創社、1984年）

勝原文夫は、その多角的な視点から、日本の農村が持つ景観の価値を理論化し、その保全の重要性を広く社会に訴え続けた稀有な存在でした。

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