勤労所得税額控除

給付付き勤労所得税額控除（EITC）について

給付付き勤労所得税額控除（EITC）は、アメリカ合衆国における社会保障制度の一環で、低所得の労働者に対して税額控除を提供することで、勤労意欲を高めることを目的としています。この制度は1975年に設立され、その後徐々に拡大してきました。具体的には、2022年には約3,100万人がこの控除を受け、合計で約640億ドルの還付が行われました。受給者1人当たりのおおよその還付額は2,043ドルに及びます。

制度の導入経緯

EITCは、低所得者の社会保険料負担を軽減するために導入されました。特に、勤労を奨励する形で報酬を得る低所得者への支援を目指しています。フォード政権の下で始まったこの制度は、セーフティネットとして機能する他の給付制度（例：児童扶養補助や補助的栄養支援プログラム）とも組み合わさり、低中所得者に対する包括的な公的扶助として位置づけられています。

また、アメリカ社会では福祉制度に対してのスティグマが存在し、多くの人々が税額控除の形を選ぶ傾向があります。クリントン政権下では、この制度が大幅に拡充され、オバマ政権では2009年に新たな給付措置が導入されました。2021年のアメリカ救済計画法では、子供のいない労働者向け控除額が539ドルから1,502ドルに強化されるなど、制度は進化を続けています。

EITCの制度内容

EITCの受給要件には、主に以下の条件が含まれています：

1. 市民権または居住資格：請求者はアメリカの市民または居住者でなければならない。
2. 労働の制限：労働所得が一定の範囲内である必要がある。
3. 社会保障番号：有効な社会保障番号（SSN）が必要です。
4. 申告ステータス：婚姻者が当然かつ独立して申告しないこと。
5. 資産制限：投資所得は11,000ドル以下でなければなりません。

また、適格な子供に関する要件もあり、子供は原則として19歳未満でなければならず、24歳未満のフルタイム学生も対象です。居住条件を満たす祖父母や兄弟も含め、特定の条件に基づいて申請可能です。子供がいない場合、申請者または配偶者は25歳以上65歳未満である必要があります。

控除額の体系

EITCは、収入に応じて逓増、定額、そして逓減の段階を設けており、所得が増えるにつれて一時的に控除額が増加し、一定額で頭打ちとなり、さらに超えると逓減していきます。特に、子供がいる場合の控除額は大きく変動します。2023年度の例では、子供1人の家庭であれば最大で3,995ドルの還付を受けることができ、子供が2人いる場合は最大6,604ドル、3人以上の場合は7,430ドルまで受け取ることができます。

現在のEITCの利用状況

現在、この制度は米国の貧困防止の策の一つとして重要な役割を果たしています。近年の調査によると、EITCにより約580万人が貧困状態から脱する助けとなっています。納税者は税務申告を通じて控除を受けることができ、確認のために社会保障番号を記入する必要があります。また、地方自治体でも独自に給付制度を設けている地域があり、州ごとに連邦額の15%から30%の追加を実施しています。

制度の課題

一方で、EITCと児童税額控除には複雑な適用要件があり、多くの場合、納税者が自らの適格性を判断することが難しい現状にあります。過誤支給や不正受給の問題も深刻で、確定申告と給付のタイムラグや、確認プロセスの不備に起因しています。過去の調査では、勤労所得税額控除に関する不正受給は、申請額の中で約28%が適正範囲を超えており、これらの問題は制度の改善に向けた大きな課題となっています。

特に、制度の複雑さから、申告書作成業者に依頼する人が多く、その手数料によって控除の利益が減少することが指摘されています。さらに、EITCの利用可能な世帯のうち約75%しかこの制度を活用できていないとのデータもあり、利用率を向上させるための取り組みが求められています。

内国歳入庁は、教育や広報活動を通じてEITCの利用促進に努めていますが、制度の認知度向上には至っていないのが現実です。それに伴い、納税者に対する監視体制の改善にも注力していますが、不正申告を阻止することは依然難しい課題となっています。

他国の類似制度

アメリカ以外でも、カナダ、イギリス、オーストリアなど複数の国が勤労税額控除を設けています。これにより、労働促進を目的とした経済政策は世界的に普及しており、特にOECD諸国に多く見られます。これらの国々では、労働時間に基づく要件や複数の制度の統合が進められています。

給付付き勤労所得税額控除は、今後も低所得世帯の支援を強化し、制度全体の改善努力とともに、社会保障政策の一翼を担い続けるでしょう。

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