北守将軍と三人兄弟の医者

北守将軍と三人兄弟の医者

概要

『北守将軍と三人兄弟の医者』は、著者宮沢賢治が作品に反映した独特の西域世界を背景にした短編小説です。この作品は、賢治が生前に発表した数少ないものの一つであり、1931年の「児童文学」創刊号に掲載されました。また、著者の創作活動の中で、約10年の年月をかけて改稿され、現在知られる形が完成しました。

あらすじ

昔、ラユーという町に兄弟三人の医者が暮らしていました。兄がリンパーで、普通の人々の医療を担い、次兄のリンプーは馬や羊の獣医、末弟のリンポーは樹医として木々の管理を行っていました。彼らは青い瓦で作られた三つの病院を並べて診療を行っていました。

北守将軍ソンバーユーは、30年もの間砂漠で戦い続けてきた精鋭の軍人で、数多の戦を経てラユーに帰還します。しかし、長い間鞍に座っていたため、体が鞍から離れなくなり、迎えの使者が来ても下馬できない事態が起きます。使者はこれを叛乱の兆しとして解釈し、帰ってしまいます。将軍はこの問題を解決するために医者の助けを求めることになります。

リンパーの元にやって来た将軍は、問診の際に簡単な計算問題を出すと、これに誤答します。リンパーは薬液で将軍を洗い流し、再度計算問題を与えると、今度は正しい答えを返します。これにより、将軍はやっと鞍から降りることができました。次に、馬医のリンプーが将軍の馬に塗り薬と飲み薬を与え、馬は元気を取り戻します。

次にリンポーの元へと向かう将軍は、顔に生えていた灰色の毛を取り除いてもらいます。こうして、将軍は王に謁見し、軍務に再び戻るように言われましたが、彼は永久に休暇を求めます。王は、代わりとなる新たな大将の人選を促すと、将軍は三人の兄弟医者を国の医者として任命することを提案し、これが受け入れられます。

その後、将軍は故郷の村に帰りますが、次第に食事を摂らなくなり、やがて姿を消してしまいます。人々は彼が仙人になったのだろうと信じ、祠を建てて祀るようになります。リンパーは将軍の不在を気にかけ、「雲だけの食事はありえない」と主張するのですが、その意見に同意する人も少なくありませんでした。

作品の特徴

この作品は、西域に設定された幻想的な物語であり、賢治は自身の知識と想像をもとに生み出したものです。本作は、他の賢治の童話みたいに、西域を舞台とした数作の中で唯一、出版されたものです。賢治は、実際に西域を訪れたことがありませんでしたが、資料を基に独自の視点を取り入れて描写をしています。

最初の形が比較的普通の散文であったのに対し、10年間の改稿の間にリズムを感じさせる散文体へと変貌を遂げました。また、本作品には詩や歌が散りばめられ、それが後世においても大きな影響を与えております。賢治の医者三兄弟や将軍の物語は、彼の創造力と個性的な世界観を色濃く感じさせるものであり、今後も多くの人々に読み継がれていくことでしょう。

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