北尾早霧

北尾 早霧

北尾 早霧（きたお さぎり、1972年 - ）は、日本の経済学者であり、マクロ経済学を専門分野としています。現在、政策研究大学院大学の教授を務めています。その研究は、主に税制や社会保障制度といった政策が、個人の行動やマクロ経済全体にどのような影響を与えるかに焦点を当てています。

略歴

北尾教授は、1996年に早稲田大学政治経済学部を卒業しました。その後、ゴールドマン・サックス証券に入社し、投資銀行部門や債券部門の資本市場部で実務経験を積みました。

2001年には、米国のハーバード大学ケネディ行政大学院で行政学および国際開発学の修士号を取得しました。さらに研究を深めるため、ニューヨーク大学に進学し、2007年に経済学博士（Ph.D.）を取得しています。

博士号取得後、教育・研究の道に進み、2007年9月には南カリフォルニア大学マーシャル経営大学院の助教授に就任。2009年9月からはニューヨーク連邦準備銀行の調査部でシニア・エコノミストとして政策分析に携わりました。

2011年9月には、ニューヨーク市立大学ハンター校および大学院センター経済学部の准教授として教鞭を執りました。

その後日本に帰国し、2015年9月には慶應義塾大学経済学部の教授に就任。2018年4月からは東京大学大学院経済学研究科の教授を務めました。そして、2024年4月より現職である政策研究大学院大学の教授として活動しています。

研究内容

北尾教授の主要な研究テーマは、マクロ経済モデルを用いた政策分析です。特に、税制度や社会保障制度、所得再分配政策といった政府の取り組みが、家計の貯蓄・消費行動や労働供給、企業の投資判断など、個人の経済行動にどのような変化をもたらし、それが最終的に経済全体の厚生水準や成長にどう影響するかを定量的に分析しています。

現代日本が直面する喫緊の課題である少子高齢化は、北尾教授の研究の中心の一つです。人口構造の変化が社会保障費の増大や労働力人口の減少を引き起こし、それがマクロ経済全体に与える影響、特に財政の持続可能性に関する研究は、政策議論において重要な示唆を与えています。

また、個人のライフサイクルを通じた消費や貯蓄の行動が、社会経済環境の変化によってどのように影響を受けるかについても、詳細な分析を行っています。

主要業績

北尾教授は、著名な国際的な学術誌に数多くの論文を発表しています。その研究は、高齢化社会における財政の課題、年金制度の改革、労働市場の構造変化など、日本の経済政策にとって極めて重要なテーマを扱っています。以下は、近年の主要な論文の一部です。

"Fiscal Sustainability in Japan: What to Tackle?" (joint with Selahattin Imrohoroglu and Tomoaki Yamada) , Journal of the Economics of Ageing, 2019, forthcoming.
"Policy Uncertainty and Cost of Delaying Reform: The Case of Aging Japan", Review of Economic Dynamics, January 2018, Vol. 27, pp.81-100.
"Can Guest Workers Solve Japan's Fiscal Problems?" (joint with Selahattin Imrohoroglu and Tomoaki Yamada), Economic Inquiry, July 2017, Vol.55: No.3, pp.1287-1307.
"A Life Cycle Model of Trans-Atlantic Employment Experiences" (joint with Lars Ljungqvist and Thomas J. Sargent), Review of Economic Dynamics, April 2017, Vol.25, pp.320-349.
"When Do We Start? Pension Reform in Aging Japan" (based on Nakahara Prize lecture), Japanese Economic Review, March 2017, Vol.68:No.1, pp. 26-47. https://doi.org/10.1111/jere.12135
"Achieving Fiscal Balance in Japan" (joint with Selahattin Imrohoroglu and Tomoaki Yamada), International Economic Review, February 2016, Vol. 57:No. 1, pp. 117-154.
"Pension Reform and Individual Retirement Accounts in Japan", Journal of The Japanese and International Economies, December 2015, Vol. 38, pp. 111-126.
"Fiscal Cost of Demographic Transition in Japan", Journal of Economic Dynamics and Control, May 2015, Vol. 54, pp. 37-58.
* "A Life Cycle Model of Unemployment and Disability Insurance", Journal of Monetary Economics, November 2014, Vol. 68, pp. 1-18.

これらの論文に見られるように、北尾早霧教授はマクロ経済学の視点から、現実の経済社会が直面する重要な課題に対し、厳密なモデル分析に基づいた学術的貢献を続けています。その研究成果は、将来世代を見据えた持続可能な社会・経済制度を設計するための貴重な知見を提供しています。

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