千利休 本覺坊遺文

千利休 本覺坊遺文

映画「千利休 本覺坊遺文」は、1989年10月7日に公開され、井上靖の歴史小説「本覺坊遺文」を基にした作品です。監督は熊井啓、主演を奥田瑛二が務め、そのほかにも萬屋錦之介や三船敏郎などの豪華キャストが名を連ねています。特に本作は第46回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、映画ファンや歴史愛好者の心に深く刻まれた作品となっています。

物語は、千利休の弟子である本覚坊が中心となり進行します。利休の切腹を受けて、本覚坊は山奥の庵に隠遁し、師の位牌を拝み続ける孤独な日々を送ります。千利休の死から27年が経過したある日、彼は織田有楽斎の茶会に招かれます。有楽斎は信長の弟であり、利休を巡る話を持ち掛ける一方で、利休の本心を理解できない本覚坊との対話を通じ、様々な思い出が蘇ります。

本覚坊の回想の中で、天正16年（1588年）の茶会の記憶が鮮やかに描かれます。利休は、豊臣秀吉の怒りを買って流罪になった知友を招き、秀吉から預かっていた掛け軸を独自に使って大胆に茶を点てました。この様子に触れた本覚坊は、利休の強い意志を圧倒的に感じ取ります。

数ヶ月後、有楽斎が本覚坊を訪ねると、利休の高弟だった山上宗二の著書の写しを借りてくると言います。そして、有楽斎は、本覚坊が利休の位牌と共に生きる姿を羨むのです。宗二の歴史を知るにつれて、彼がどのように秀吉に対抗したのかを知ることができ、有楽斎と本覚坊は深い対話を交わしていきます。

やがて二人は、利休の命日に共に墓を訪ねる機会を得ます。利休はかつて多くの武士たちに茶を点て、それを戦の準備としていたことが語られ、過去の茶会に思いを馳せます。本覚坊は、古田織部との出会いを振り返り、彼が利休の形見の茶杓を「涙」と名付けたことを語ります。この名の持つ意味は深く、戦国時代の激動を感じさせるものです。

関ヶ原の戦い後、古田織部は無実の罪で切腹を果たします。有楽斎は、もし自分が織部を助けていればという思いを抱き、彼の死を嘆きます。利休と宗二、そして織部の三人が茶会にいたことを悟り、彼らの死の盟約の存在が浮かび上がりますが、有楽斎は「自分は腹を切らない」と苦笑するのです。

元和7年（1622年）、死の床につく有楽斎。駆けつけた本覚坊は、夢の中で利休の最期の言葉を聞いたと語ります。利休は秀吉に呼び戻され、命を賜る過程で、彼自身が「侘び」を会得したことを明かします。この言葉を受けた有楽斎は、利休の孤高の心を理解し、最後の最後まで茶人としての道を貫こうとする本覚坊の姿を思い浮かべます。

「千利休 本覺坊遺文」は、茶道の精髄や歴史的な背景を豊かに描き出し、観る者に深い感動を与える作品です。そのメッセージは、孤独や信念、師弟間の絆など、多くのテーマを内包しています。

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