千葉一裕

千葉 一裕

千葉 一裕（ちば かずひろ）氏は、1959年1月25日生まれの日本の化学者です。東京都杉並区の出身で、生家は数百年にわたり漢方薬「千葉實母散」の製造販売を手がけていました。農学博士号を取得しており、現在は東京農工大学の第14代学長を務めています。

氏の専門分野は、農芸化学、生物有機化学、そして有機電気化学に及びます。研究者としての深い知識と経験に加え、自ら会社を設立した経験を活かし、大学における教育研究活動の推進や経営改革に尽力する傍ら、アントレプレナー（起業家）の育成や、大学発スタートアップの創出支援にも長年積極的に取り組んでいます。

経歴

成蹊小・中・高等学校を経て、1977年に東京農工大学農学部農芸化学科に入学。同大学院農学研究科農芸化学専攻を1983年に修了しました。その後、キユーピー株式会社での勤務経験を経て、1990年に母校である東京農工大学の助手に就任。1991年には農学博士の学位を取得しました。助手の後、講師、助教授と昇進し、2004年からは教授として教育研究に携わっています。この間、文部省の在外研究員としてアメリカ合衆国のワシントン大学セントルイス校化学科に留学し、研究を深めました。

研究活動と起業

研究分野では、有機電解法を用いた新たな化学反応の開発や、ペプチド、核酸といった中分子化合物の化学合成法の開発に貢献してきました。特に、これらの研究成果を社会実装する試みとして、2005年にはJITSUBO株式会社を設立し、起業家としての第一歩を踏み出しました。同社は、環境への負荷が少なく、高純度な化合物を大量に生産できるペプチド中分子医薬製造技術を基盤として成長。その後、M&Aを経て、海外の大手製薬企業との間で、糖尿病や肥満症などの疾病分野における独占的な製造ライセンス契約を締結するに至りました。

大学運営とイノベーション推進

研究・教育活動に加え、大学の運営やイノベーション推進においても中心的な役割を果たしています。2008年からは東京農工大学の産官学連携・知的財産センター長や教育研究評議員を、2010年からはイノベーション推進機構長や学長補佐を歴任。2014年からは副学長（イノベーション担当）として、大学全体のイノベーション創出体制の強化を牽引しました。また、2013年からはSRI International（当時）と連携し、シリコンバレーを拠点とした国内外の学生や教職員、企業関係者向けの研修プログラムを数多く企画・実施。その経験を基に、海外の大学等でもイノベーションリーダーの育成活動を展開しています。

国の政策への貢献

日本の科学技術・イノベーション政策分野でも重要な役割を担っています。内閣府が主導するムーンショット型研究開発制度の目標5（農林水産研究開発事業）においてプログラムディレクターを務めたほか、文部科学省のNanoTerasu（次世代放射光施設）の利活用に関する有識者会議の座長、文部科学省大学研究力強化委員会の主査など、国の主要な施策に関わる委員や役職を歴任。農林水産省の中小企業イノベーション創出推進事業（SBIR）では統括プログラムマネージャーを務め、また、科学技術振興機構が推進するムーンショット型研究開発事業における日米豪印4か国協力のテクニカルリードを担当するなど、多岐にわたる貢献を行っています。

受賞

これまでの功績に対し、複数の賞が授与されています。

2007年 電気化学会論文賞
2011年 第11回MIT-EFJビジネスコンテスト＆クリニックにて、MIT-EFJ最優秀賞、正会員特別賞、新日本有限責任監査法人賞を受賞
2022年 Electrochemical SocietyよりManuel M. Baizer賞を受賞

千葉氏は、研究者、起業家、大学経営者、政策提言者といった多角的な視点を持ち、日本の科学技術の発展とイノベーション創出、次世代育成に貢献し続けています。

外部リンク

東京農工大学
* 東京農工大学生物有機化学研究室

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