千葉大学附属図書館

国立大学法人千葉大学が運営する附属図書館は、西千葉、亥鼻（いのはな）、松戸の三つのキャンパスにそれぞれ本館と分館を置いている。各館は資料の提供にとどまらず、学生が自ら学び続ける能力を育むことを目指し、学内各所との連携を深めるアカデミック・リンク・センター（Academic Link Center）を併設している。

本館

千葉大学の本部が所在する西千葉キャンパスにある本館は、L棟、I棟、N棟、K棟と呼ばれる四つの建物で構成されている。これらの名称は、学内公募で選ばれ、学習（Learning）、探究（Investigation）、連携（Networking）、知識（Knowledge）の頭文字をとったものだ。これらを繋げると「LINK」となり、アカデミック・リンクという全館共通のコンセプトにも通じている。

従来のL棟とK棟は、静かに学習や研究に集中できる環境を提供している。一方、新築されたN棟は全面ガラス張りで、能動的な学習を促すための空間として活用されている。1階にはプレゼンテーションが行えるスペースがあり、教職員によるセミナー「あかりんアワー」が定期的に開催されている。2階以上にはホワイトボードや自由に配置できる机・椅子などが配置され、対話や共同作業に適した環境が整えられている。特に3階は情報端末が豊富に用意され学生に開放されており、4階にはガラス張りのグループ学習室や研究個室が設けられており、互いに学び合う姿を見たり見られたりすることで刺激が生まれることを意図している。

このようなN棟の設計は、大学におけるラーニング・コモンズの先進事例として評価されている。しかし、アカデミック・リンク・センターでは、活動的な空間と静かな空間の共存を重視しており、活動的なニュアンスが強い「ラーニング・コモンズ」という表現は使用していない。N棟とK棟の間には扉を設けず、各空間のゾーニングを緩やかにするなど、より自由な雰囲気の空間づくりを目指している。

I棟は他の棟とは別に位置し、アカデミック・リンク・センターの講義室、スタジオ、そしてセンターに所属する教員の研究室などが設けられている。

本館の沿革

千葉大学が新制大学として発足した1949年（昭和24年）に附属図書館が設置された。翌年には陸軍高射学校跡地を改修した建物で開館。1963年（昭和38年）には現在の西千葉キャンパスに移転したが、建物の老朽化と利用者数の増加により、新築が急務となった。1968年（昭和43年）には3階建ての新館が開館し、外部に設けられた階段を通じて2階に直接アクセスできる様式は当時の大学図書館建築で広く見られた。

その後も学生数の増加などに対応するため、1981年（昭和56年）には増築工事が行われた。この増築部分は新館と呼ばれ、従来の建物を旧館と称した。新館は学習図書館、旧館は研究図書館としての利用が想定された。

そして2012年（平成24年）には、旧館の耐震改修と新たに2棟を増築する大規模なリニューアルが行われ、現在のL・I・N・K棟体制となった。この改修を経た図書館建築は、同年にはグッドデザイン賞を受賞し、「大学図書館にありがちないかめしさが無い」と評価された。

亥鼻分館

医学部などが集まる亥鼻キャンパスには、附属図書館の亥鼻分館が置かれている。ここでは、江戸時代から明治初期にかけて刊行された約5,500冊の古医書コレクションが所蔵されている。

建物は地上3階・地下1階建てで、地階と1階は研究者向け、2階は学生向け、3階は地域住民も利用できるフロアとして構成されている。

亥鼻分館の沿革と古医書コレクション

亥鼻分館の前身は、1926年（大正15年）に設置された旧制千葉医科大学附属図書館である。第二次世界大戦中の千葉空襲では大学施設が被害を受ける中、図書館建物自体は焼失を免れたものの、一部蔵書は失われた。

戦後、千葉大学医学部分館となり、亥鼻キャンパス内での配置換えや蔵書増加に伴う書庫不足などが課題となった。1971年（昭和46年）には一部施設が新築・開館したが、書庫建設が進まないなど困難も続いた。1978年度（昭和53年度）に医学部から附属図書館の管轄となり、亥鼻分館と改称された。1996年（平成8年）には現在の建物がキャンパス中央部に新築された。

古医書コレクションは、千葉医科大学の教授であった伊東彌恵治が、戦中戦後に精力的に収集したものである。戦時中に洋書が買えなくなった予算を古医書購入に充てたり、空襲による散逸を惜しんで集めたりした経緯がある。また、千葉家の約1,000冊や佐倉順天堂の佐藤家から譲り受けた約400冊なども含まれている。和漢の医書を中心に約5,500冊にも及び、古医書収集の規模としては京都大学の富士川文庫に次ぐものとされている。書庫不足のため、一時期本館に委託されたこともあったが、現在は目録整備や電子化・公開が進められている。

松戸分館

園芸学部が置かれる松戸キャンパスにある附属図書館の松戸分館は、2019年のリニューアルを経て「アカデミック・リンク松戸」と称されている。これは図書館機能に加え、事務室や研究室・実験室なども入居する複合施設となっている。分館では、江戸・明治期の園芸書コレクション数十点を所蔵しており、こちらも電子化・公開が進められている。

松戸分館の沿革

園芸学部の前身である千葉農業専門学校の小規模な図書館を母体として、1951年（昭和26年）に千葉大学附属図書館園芸学部分館が設置された。弓道場を改築した建物でのスタートだった。

1957年（昭和32年）には松戸に園芸学部が残ることが決定し、図書館の新館建設を含む整備事業が始動。1963年（昭和38年）には新館が竣工。その後、学生ホールを閲覧室に改装するなどして利用スペースを拡大した。しかし、蔵書増加や建物の老朽化・狭隘化は長年の課題であり、特に改築が急務とされていた。2017年度（平成29年度）に施設整備の補助金交付が決定し、改築計画が本格的に始動。関係者による詳細な検討を経て、2019年（令和元年）に複合施設として竣工し、開館した。

このリニューアルされた「アカデミック・リンク松戸」は、2021年度のグッドデザイン賞を受賞しており、周辺の台地を活かした環境に配慮した建築デザインが高く評価されている。

アカデミック・リンク・センター（ALC）

アカデミック・リンク・センター（ALC）は、正式には附属図書館とは別の組織だが、教職員が兼任しているため、実質的に一体となって運営されている。「アカデミック・リンク」のコンセプトは、知識基盤社会で自ら学び続けられる学生を育成することにあり、資料（コンテンツ）と学習活動を緊密に結びつけることでこれを実現しようとしている。

アカデミック・リンクは主に以下の三つの要素で構成される。

アクティブ・ラーニング・スペース：能動的な学習や討論、プレゼンテーション練習などを行うための空間。ライティング・センターのような機能や学習支援スタッフが配置される。
ティーチング・ハブ：アクティブ・ラーニング・スペースでの学習支援を担う教職員をサポートするための拠点。
* コンテンツ・ラボ：授業で活用できるデジタル資料の作成や、それらの提供を行うための部門。

ALCの沿革と発展

アカデミック・リンクの構想は、1990年代後半の「総合メディアホール」構想や、2006年（平成18年）に始まった「リエゾン・ライブラリアン・プロジェクト」に遡る。リエゾン・ライブラリアンは、教員と図書館を結び、学習支援に重点を置く図書館員の役割である。このプロジェクトでは、授業と連携した情報資源の案内（パスファインダー、後に「授業資料ナビゲータ」）を作成し、学生の情報活用能力向上を目指した。

2007年（平成19年）以降、アカデミック・リンク構想は具体化し、大学教育の改革への社会的要請に応えるコンセプトとして位置づけられた。2011年（平成23年）4月にはALCが設置され、翌2012年（平成24年）には西千葉本館のリニューアルにより「アカデミック・リンク・センター／附属図書館」として新たなスタートを切った。同年7月には、亥鼻分館と松戸分館にもアクティブ・ラーニング・スペースが設置された。

設置から4年後の2014年度（平成26年度）に行われた外部評価では、ALCの活動は「素晴らしい成果を上げた」「日本の大学における新しい学習環境のモデル」と高く評価された。一方で、本館ほど環境改善が進んでいない分館、特に老朽化が著しい松戸分館の環境整備が課題として指摘された。この課題への対応として、松戸分館の改築計画が進められ、2019年にリニューアルが実現するに至った。

電子化への取り組み

千葉大学附属図書館では、早い段階から図書館業務の電子化を進めてきた。1979年（昭和54年）にはコンピュータを導入し、貸出や雑誌管理を開始。当時はまだ大学図書館ごとの個別開発が主流であったが、鹿児島大学や横浜国立大学と連携してシステムの開発を進めた。

学内LANの整備と並行して、情報処理センターとの協力のもと学術情報システムの構築を進め、学術情報データベースの検索を可能にした。特に1990年代には、学内研究室と連携して蔵書検索システム（OPAC）の開発が進められた。当初のLISIC, LISICBに続き、1993年（平成5年）には新システムCULISが開発された。そして1994年（平成6年）4月、日本の大学図書館として初めて、インターネットのWorld Wide Webを利用したCULISの運用を開始したことは特筆される。

さらに、学術成果の発信にも注力しており、2002年（平成14年）7月には日本初の学術機関リポジトリ計画が始動し、2005年（平成17年）に「CURATOR」（Chiba University's Repository for Access To Outcomes of Research）として正式公開された。

これらの取り組みは、利用者に先進的な情報サービスを提供し、図書館の機能を現代社会に合わせて拡張するための重要な歩みとなっている。

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