千輪浩

千輪浩（ちわ ひろし）は、1891年6月29日に生まれ、1978年8月13日に没した日本の心理学者です。

学歴と職歴

旧制第六高等学校を卒業後、東京帝国大学文学部哲学科で心理学を専攻し、学びを深めました。大学卒業後、学問の道に進み、1926年には東京帝国大学の助教授に就任します。その後教授に昇任し、長きにわたり同大学で教鞭を執り、心理学の研究と教育に貢献しました。1952年に大学を定年退官し、東京大学名誉教授の称号を得ました。また、日本の心理学界における功績が認められ、1965年には日本心理学会名誉会員に推挙されています。

研究活動と業績

千輪浩の研究分野は非常に幅広く、心理学の黎明期から発展期にかけて多岐にわたるテーマを探求しました。初期の著書には、人間の能力や効率に関連する『疲労と練習』（1917年）や、当時の社会において関心が高まりつつあった『女性心理』（1921年）があります。これらの著作は、初期の応用心理学や性差心理学への関心を示すものです。戦後には、心理学の最新の動向をまとめた『現代心理学』（1948年）を著し、学術界に新たな知見を紹介しました。

彼の研究の広がりは、膨大な数の論文からも明らかです。例えば、「職業適任者研究の心理学的方法」といったテーマは、人事や教育への応用を意識したものであり、「継時的刺激用新瞬間露出器」の開発に関する論文は、実験心理学の基礎的な研究への深い関与を示しています。また、「新精神物理学」に関する論考は、感覚・知覚研究における新しいアプローチへの関心を示しており、当時の最先端の議論に積極的に参加していたことがうかがえます。さらに、「動物の行動研究」や「ゲシタルト心理学」に関する論文は、当時の心理学界で注目されていた新しい学派や異分野の知見を積極的に取り入れようとする姿勢を示しています。「作業能発展中の心理学的段階」や「学習の科学的法則」に関する研究は、教育心理学や学習理論への貢献を示すものです。これらの論文は、『心理研究』や『日本心理学雑誌』など、主要な心理学専門誌や学術誌に数多く発表されています。

翻訳と影響力

千輪浩は、国内での研究・教育活動に加え、海外の心理学研究の紹介にも努めました。D.カートライト編の『社会的勢力』（1962年）の翻訳を手がけるなど、海外の重要な文献を日本に紹介し、日本の心理学界の国際的な視野を広げることにも貢献しました。

彼の長年にわたる教育と研究活動は、日本の多くの心理学者に影響を与えました。1965年には、彼の古稀を記念して『心理学論集 千輪浩先生古稀記念』が出版されており、多くの研究者や門下生から深い尊敬を集めていたことがうかがえます。千輪浩は、実験心理学から応用心理学、社会心理学まで、心理学の幅広い領域において研究の基礎を築き、多くの後進を育成した、日本の心理学史において重要な役割を果たした人物です。

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