南方開発金庫

南方開発金庫（なんぽうかいはつきんこ）とは

太平洋戦争中に、日本政府が南方占領地の開発資金供給と金融調整を目的に設立した特殊な金融機関です。略称は「南発」。表向きは開発金融機関でしたが、実際には敵産管理や中央銀行・市中銀行の役割も兼ねていました。1943年4月1日からは、独自の通貨である南発券を発行し、戦後もその影響を残しました。

設立の背景

1941年12月の香港占領を皮切りに、日本軍は東南アジア各地を占領しました。しかし、占領地での資源開発や物資買付に必要な資金を、日本本土から持ち出すことが困難でした。現地通貨と軍票の交換も制限されていたため、軍票を資金として貸し出す必要に迫られました。しかし、軍票は本来軍事費支払いのためのものであり、国庫会計で処理することはできませんでした。

そこで政府は、臨軍費から軍票資金を借り入れ、それを融資する南方開発金庫の設立を計画しました。設立準備は開戦直後から進められ、1942年1月には南方開発金庫法案要綱が閣議決定されました。同年2月には法案が成立し、3月には金庫が設立されました。初代総裁には佐々木謙一郎（満鉄副総裁）、副総裁には武井理三郎（日銀理事）が任命されました。

南方開発金庫法

南方開発金庫法は、従来の植民地金融機関の枠を超えるものでした。主な内容は以下の通りです。

目的: 南方地域における資源の開発と利用に必要な資金の供給、および通貨と金融の調整。
所在地: 本店を東京に置き、必要に応じて支店や出張所を設置。
出資金: 1億円全額を政府が出資（国債での充当も可）。
職員: 公務員とみなす。
業務: 地金銀の売買を含む市中銀行業務、政府の認可による目的外業務や借入れ。
債券発行: 払込資本金の10倍まで債券を発行可能。
損失補償: 政府は投融資による損失を補償する契約が可能。
臨軍費からの貸付: 臨軍費特別会計から貸付が可能。

南発券の発行と晩期の融資

1943年1月下旬、南発は発券業務を認可され、同年4月1日から南発券を発行開始しました。これは、政府の軍票発行債務を引き継ぐもので、事実上占領地の中央銀行としての役割を担うことになりました。しかし、南発券の発行残高は急速に膨張し、インフレを招きました。

南発は、大蔵省預金部資金や農林中央金庫からの債券引き受け、地銀や生保からの長期借入、日銀借入などによって資金を調達し、その資金を軍の斡旋で日本企業に貸し出しました。主な融資先には、南方運航会社、日本軽金属、石産精工、石原産業、林兼商店、三井物産、古河鉱業などが挙げられます。

南発の戦後処理

1945年8月15日の敗戦により、南方占領は終了しました。平和裏に降伏したジャワやマラヤでは、南発券の回収が試みられましたが、混乱の中で徹底されませんでした。ジャワではインドネシア独立戦争が勃発し、連合軍は当初南発券の流通を認めざるを得ない状況でした。英軍はジャワで必要な現金を南発から調達し、その額は巨額に達しました。一方、マラヤでは英軍上陸と同時に南発券が無効化されました。

日本では、1945年9月30日にGHQが南方開発金庫の閉鎖を命令しました。しかし、現地では混乱が続き、南発券は戦後もしばらく流通しました。スマトラ島では連合軍に南発券が供給され、ジャワのスラバヤ出張所はインドネシア政府によって強制清算されました。フィリピンでは米軍が南発券の無効を宣言しました。

南方開発金庫法の詳細

以下に、南方開発金庫法と南方開発金庫法施行令の条文をまとめます。

南方開発金庫法（法律第二十三号）

第一章 総則
第一条：当金庫は南方開発金庫法により設立し、南方開発金庫と称する。
第二条：当金庫は南方地域における資源の開発及び利用に必要な資金を供給し、併せて通貨及び金融の調整を図ることを目的とする。
第三条：当金庫は主たる事務所を東京市に置き、これを本金庫と称する。
第二章 資本金
第六条：当金庫の資本金は一億円とする。
第七条：政府は一億円を当金庫に出資するものとする。
第八条：政府出資の第一回払込額は一千八十万円とする。
第三章 職員
第九条：当金庫に役員として総裁、副総裁、理事、監事を置く。
第十条：総裁は当金庫を代表し、その業務を総理する。
第十一条：総裁及び副総裁は勅令を経て政府が任命する。
第四章 業務及び其の執行
第十五条：当金庫は資源の開発及び利用に必要な融資又は投資を行う。
第十六条：当金庫は大蔵大臣の認可を受け、前条の業務以外に必要となる業務を行うことができる。
第五章 債券及び借入金
第十九条：当金庫は払込出資金の十倍を限度として債券を発行できる。
第二十条：当金庫は債券借換の為、一時的に前条の制限を超えて債券を発行できる。
第六章 会計
第三十六条：当金庫の事業年度は四月一日から翌年三月三十一日までとする。
第七章 定款の変更
第三十九条：本定款を変更しようとするときは、総裁は大臣に申請し認可を受けるものとする。

南方開発金庫法施行令（勅令第百四十八号）

第一章 登記
第一条：南方開発金庫の設立登記は、総裁が設立委員より事務引渡しを受けた日から二週間以内に主たる事務所の所在地で行う。
第二章 債券
第十七条：南方開発金庫の発行する債券は無記名利札付とする。ただし、応募者または所有者の請求により記名式とすることができる。
第十八条：債券の募集に応じようとする者は、債券申込書二通に引き受けるべき債券の数と住所を記載し、署名または記名捺印をする必要がある。
第二十六条：債券には第十八条第二項第一号から第七号に掲げる事項と証券番号を記載し、総裁が記名捺印する必要がある。

まとめ

南方開発金庫は、戦時下の特殊な状況下で設立され、複雑な役割を担った金融機関でした。その活動は、戦後の東南アジアの経済や政治にも大きな影響を与えました。

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