南海の花束

『南海の花束』 概要

『南海の花束』は、1942年に東宝が製作したモノクロ映画で、日本における航空の進展をテーマにした作品です。この映画は、当時の南洋群島における赤道越えの民間航空路開拓を舞台に、厳格な支所長と操縦士たちの葛藤を描いています。特に、八木隆一郎の戯曲『赤道』を元にしたストーリーは、当時の国策を促進するプロパガンダ的な意図もありつつ、人間ドラマとしても多くの観客に感銘を与えました。

制作背景

映画の撮影は、太平洋戦争前の日本委任統治領であるパラオを舞台に行われました。撮影当初、監督の阿部豊は脚本に満足しておらず、撮影が進まずにいました。そのため、助監督の市川崑は、日米開戦が迫る中での焦りを募らせ、監督を催促しました。結果として、1941年12月のギリギリの時期にロケは完了したという逸話があります。市川は後年、この経験を語る中で命の危機を感じたことを振り返っています。

あらすじ

映画の物語は、興亜航空の南洋支所に赴任した新しい支所長・五十嵐が、航空の安全と実績を重視し、厳格な管理に乗り出すところから始まります。彼は飲酒飛行の禁止や操縦士の身体検査を実施し、反発を招きます。特に、操縦士の石川を地上勤務に配置転換したことで、操縦士たちとの間に緊張が生まれます。

物語はさらに進展し、五十嵐は郵便飛行の決行を命じますが、悪天候の中で二人の操縦士が行方不明になります。結果的に、査問委員会はエンジン故障が原因であることを明らかにします。五十嵐の生徒である堀田は、彼の操縦できない苦しさを操縦士たちに説明し、徐々に規則遵守の意識が高まっていく様子も描かれています。

開拓飛行

物語は五十嵐のリーダーシップの下、南洋航路の開拓が進む中で、人間関係や感情の葛藤が織り交ぜられます。最初の開拓飛行を行うことが決まった日下部は、出発前に堀田の遺品を託され、仲間たちの冥福を祈るシーンは、物語のクライマックスとなります。堀田機が遭難する場面では、一週間の捜索の末に全乗員の死亡が告げられ、操縦士たちの心情が深く描かれます。

街と映像技術

『南海の花束』では、円谷英二によるミニチュア特撮が用いられ、嵐の中の飛行シーンや実機の離着水シーンがリアルに表現されています。また実際に使用された水上機の姿も映画に登場し、当時の航空の状況を感じさせる仕上がりとなっています。

配役とスタッフ

出演する俳優たちも、それぞれのキャラクターを見事に演じました。支所長・五十嵐役には大日方傳が、操縦士・日下部役には河津清三郎がキャスティングされました。特に、演出や撮影を通じて阿部豊のビジョンが強く反映された映画です。

出典と影響

この作品は後の特技監督たちにも影響を与え、視覚的な技術の進展に寄与しました。特に、飛行艇の操縦士を志望する若者たちにとって、強い鼓舞となる作品となったのです。

『南海の花束』は、単なる航空映画を超え、戦時中の日本の航空業界の動向や人間ドラマを描いた重要な作品であることが、この映画の魅力です。

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