単結晶状高純度無酸素銅

単結晶状高純度無酸素銅（PCOCC）とは

単結晶状高純度無酸素銅（たんけっしょうじょうこうじゅんどむさんそどう）、通称PCOCCは、オーディオ製品、特にスピーカーケーブルやラインケーブルなどの機器間接続用途に特化して開発された、かつて製造されていた特殊な無酸素銅延伸材です。一方向結晶無酸素銅とも呼ばれます。PCOCCという略称は、英語表記のPure Copper by Ohno Continuous Casting processに由来し、これは「大野式連続鋳造法で作られた純粋な銅」という意味を持ちます。ここで言う「大野」とは、PCOCCの製法を開発した大野篤美氏の名前にちなんでいます。

開発の背景と特徴

PCOCCは、1986年に古河電気工業によって開発されました。この銅線の最大の特徴は、その製造方法にあります。OCC（Ohno Continuous Casting）製法によって製造された銅線は、結晶構造が単一化されています。具体的には、結晶の長さが約100メートルにも及ぶという、驚異的な長さを誇ります。この単一結晶構造により、不純物が入り込む余地となる結晶粒界が極めて少なくなり、結果として非常に高い純度と優れた導電特性を実現しています。そのため、PCOCCはオーディオ用途に最適な電線素材とされていました。

ただし、PCOCCの具体的な純度については、公式には公表されていません。また、製造された銅線は、製品によってはアニール処理（焼鈍）されることもあります。アニール処理されたものは、特にPCOCC-Aと呼ばれます。

PCOCCの素線は、オーディオテクニカ、サエク、オヤイデ電気といったオーディオケーブルメーカーに供給され、各社で製品化されていました。

製造中止とその影響

しかし、2013年3月、古河電気工業は、据え置き型オーディオ市場の低迷を理由に、PCOCC線材の製造を中止すると発表しました。オーディオ用銅線材の売り上げが低迷し、市場の回復も見込めない状況から、同年8月に製造を停止し、年内には販売も終了するという方針でした。

この製造中止の発表は、オーディオ業界に大きな衝撃を与えました。PCOCCの代替品を求める声が高まり、各社で代替製品の開発が模索されました。その結果、2014年には、古河電気工業の子会社であるFCMがPCOCCの代替素材としてPC-Triple Cを発表しました。また、オヤイデ電気も自社開発の導体である102 SSCを発表しています。

PCOCCの技術的優位性とその後

PCOCCの最大の特徴は、結晶構造の均一性と、それによる高い導電性にありました。これにより、信号伝送時の損失が極めて少なく、オーディオ信号を劣化させずに伝送できるとされていました。その独特の音質特性も評価され、オーディオ愛好家から高い支持を得ていました。

製造中止は、オーディオケーブル業界に大きな変革をもたらし、各社が新たな素材の開発に取り組むきっかけとなりました。PC-Triple Cや102 SSCといった代替素材の開発は、PCOCCの技術的な優位性を維持しつつ、より高い品質と安定性を目指す流れを生み出しました。

現在では、PCOCCは過去の技術となっていますが、その技術思想は、現在もオーディオケーブルの素材開発に影響を与え続けています。オーディオケーブルの歴史を語る上で、PCOCCは欠かすことのできない重要な存在です。

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