単記移譲式投票

単記移譲式投票：公平で効率的な選挙システム

単記移譲式投票（Single Transferable Vote、STV）は、複数の候補者から複数人を当選させる選挙制度です。有権者は、候補者たちに優先順位をつけて投票します。この制度は、票の分散や候補者の乱立といった問題を軽減し、より多くの有権者の意思を反映した結果を生み出すことを目指しています。

STVの仕組み

STVでは、まず各候補者の得票数を集計します。あらかじめ定められた最低得票数（割り当て）に達した候補者は当選となります。しかし、当選者が割り当てを超える得票を得ている場合、その余剰票は、投票用紙に記載された優先順位に従って他の候補者に移譲されます。

もし、当選者が決定する前に、最低得票数に達していない候補者がいる場合、最少得票数の候補者が落選となり、その票も同様に、優先順位に従って他の候補者に移譲されます。この票の移譲と落選者の決定を繰り返し、必要な人数の当選者が決まるまで集計が続けられます。

このプロセスにより、有権者の投票が最大限に有効活用され、少数派の意見も反映されやすくなります。比例代表制の一種ですが、政党名簿に縛られないため、有権者は個々の候補者について自由に判断できます。

割り当てと剰余票の処理

STVでは、当選に必要な最低得票数（割り当て）の算出方法がいくつか存在します。最も一般的なのはドループ基数で、以下の式で計算されます。

(有効投票総数 / (議席数 + 1)) + 1

この式によって算出された数値の小数点以下は切り捨てられます。ドループ基数は、ヘア基数と比較して、小政党にやや不利である一方、当選者決定に必要な票数が少なくなるため、効率的とされています。

また、余剰票の移譲方法も様々な方法が存在します。例えば、グレゴリー方式は、余剰票を完全にランダムに振り分けるのではなく、一定のルールに基づいて公平に配分する方法です。一方、ミーク法は、全ての票を自動的に配分する方法で、コンピューターを用いることが前提となっています。

STVの歴史と名称

STVの概念は、1821年にトーマス・ライト・ヒルによって初めて提案されました。その後、1856年にデンマークで初めて実際の選挙に適用され、その後イギリス植民地を中心に広まりました。そのため、ヨーロッパ大陸で主流の政党名簿比例代表制と対比して「イギリス式比例代表制」と呼ばれることもあります。

また、オーストラリアでは「ヘア＝クラーク比例方式」、アメリカ合衆国では「選択投票」や「選好投票」と呼ばれていることもあります。日本では「単記移譲式」と訳されていますが、有権者が複数の候補者に順位を付けることから、「単票移譲式」と呼ぶべきとの意見もあります。

STVの長所と短所

STVの長所は、票の有効活用による公平性、小政党への配慮、有権者の意思をより正確に反映できる点です。しかし、短所としては、集計方法が複雑で、有権者にとって理解しづらい点、政党の役割が小さくなる可能性などが挙げられます。

STVと他の投票制度

STVは、比例代表制の発展に大きな影響を与え、定数1の選挙に適用されたものがInstant-runoff votingです。しかし、Instant-runoff votingには改善の余地があり、より優れた一人勝ち選挙用投票制度が提案されています。これらの知見をSTVに適用することで、さらに優れた比例代表制を設計できる可能性があります。

STVの適用状況

STVは、現在、英語圏を中心に広く適用されています。

まとめ

単記移譲式投票は、複雑なシステムですが、公平で効率的な選挙システムとして、世界中で利用されています。その仕組みや歴史、他の投票制度との関係性を理解することで、より良い選挙制度の議論に貢献できるでしょう。

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