印籠

印籠の概要

印籠（いんろう）とは、薬や印判を運ぶための携帯用容器です。元々、印を入れたことからこの名が付きましたが、後にその形や装飾から美術品としての価値が認められるようになりました。この容器は合（ごう）または具（ぐ、そなえ）という単位で数えられます。

印籠の歴史と機能

印籠は多くの場合、平たい長方形の形状をしており、紙製、木製、金属製のものがあります。特に優れたものは、紙で作られており、和紙と漆を重ねることで堅牢性が高く、持ち運びに適しています。木製のものは歪みやひび割れが起きやすいため、日常使いにはあまり適しません。表面には漆が施され、蒔絵や螺鈿、象嵌、切金などの装飾が加えられることが多く、これらは日本の漆器に属する特徴でもあります。

印籠の使い方としては、各段の両側に紐を通し、着物の帯の後ろに引っかけて持ち歩くスタイルが一般的でした。また、印鑑入れとしての役割は中国から伝来しましたが、日本独自で進化し、より小型で携帯しやすい印籠の形態が生まれました。室町時代には、香料や薬、火打石を腰に下げて持ち歩く習慣があり、戦国時代になると印籠は薬を数種類携帯できる頑丈な容器として人気を集めました。さらに、茶の湯の文化とも関連して、茶器の棗（なつめ）から派生したとの見方もあります。

江戸時代に入ると、印籠は武士や町人の間で常備薬を携帯するための道具として根付きました。また、浮世絵や他の歴史資料にも頻繁に登場し、江戸時代の一時期、権力や地位を象徴する装身具としての役割を持つこともありました。特にテレビドラマ「水戸黄門」では、権力の象徴として描かれています。現代の大相撲でも、特定の行司のみが印籠を持つことが許されており、その価値を示しています。

印籠の変遷

しかし、印籠は次第に実用性を失っていき、江戸時代中期から後期にかけては飾り付けが華やかになり、装身具から愛玩品へと変わっていきました。特に幕末から明治にかけては、技術が向上し、美的要素が強調された印籠が登場します。この時期、海外からの工芸品も注目され、清水三年坂美術館の村田理如や雲龍庵の北村辰雄といった人物は、印籠の美しさに感銘を受け、コレクションや工房を設立しました。

1980年代には、すでに優れた印籠の多くが海外へ流出しており、日本国内には残存しているものが少なかったようです。しかし、北村が再現技術を成功させ、今日では多くのコレクターにの元に印籠が届けられています。

転義

「いんろう」という語は、建築や機械の分野においては接合面に隙間がない構造を指し、安定性を重視する意味でも使用されます。また、日本料理では野菜やイカの中心に具を詰める技法も「印籠」と呼ばれます。具体的には、稲荷寿司や印籠漬などがその例です。このように、印籠は多様な文化や技術に影響を与え続けているのです。

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