危険なお絵描き

『ドクター・フー』シリーズ2第11話「危険なお絵描き」：少女の絵とオリンピックの謎

2006年、イギリスで放送されたSFドラマ『ドクター・フー』シリーズ2の第11話「危険なお絵描き」(原題: Fear Her)は、2012年ロンドンオリンピック開催日を舞台に、不思議な力を持つ少女と、タイムトラベラーであるドクター、そしてコンパニオンのローズが織りなすミステリーです。脚本はマシュー・グラハム、監督はユーロス・リンが担当しました。

物語の舞台と概要

物語は、オリンピック開会式当日、ロンドンの住宅街を舞台に展開します。主人公は、絵を描くことで描いた人物を消滅させる能力を持つ少女、クロエ・ウェッバー。ドクターとローズは、この少女の能力の謎を解き明かそうと奔走します。低予算で制作されたこのエピソードは、当初はスティーヴン・フライが執筆した別の脚本を差し替えられたものです。

制作過程：予算と脚本の変更

脚本家のマシュー・グラハムは、当初は子供向けで明るく、シリーズ後半の暗い展開を和らげる役割を期待されて執筆を始めました。番組責任者ラッセル・T・デイヴィスは、グラハムに自身の7歳の息子のために脚本を書いてほしいと依頼したほどです。脚本は当初「クロエ・ウェッバーは地球を破壊する」というタイトルで、その後「悪い子、クロエ・ウェッバー」など様々な仮題を経て現在のタイトルに決定しました。初期の脚本の中には、舞台が別の惑星だったものもあったようです。

キャスティングと撮影

クロエ役のアビソラ・アグバエは、キャスティング・ディレクターによって偶然発見され、少女の普通の姿と、物語の重要な存在であるアイソラスに取り憑かれた状態の両方を演じ分けました。アイソラスに取り憑かれた演技では、囁き声を使う必要があり、アグバエはハスキーボイスのため苦労したと語っています。撮影は主にカーディフで行われ、一部のシーンはカーディフとニューポートのスタジオで撮影されました。トリッシュ・ウェッバー役のニーナ・ソシャーニャとケル役のアヴドゥル・サリスは、映画『ラブ・アクチュアリー』にも出演していた俳優です。

放送と評価：賛否両論の渦中

「危険なお絵描き」は、2006年6月24日にBBC Oneで初放送され、714万人の視聴者数を獲得、視聴率は83を記録しました。しかし、批評家の評価は賛否両論に分かれました。住宅街を舞台にした演出や俳優陣の演技は高く評価された一方で、ストーリーが型にはまっていて平凡であること、特に終盤の聖火ランナーのシーンは意味がないと批判されました。グラハム自身は、子供たちからは好意的な反応を得たものの、一部の大人からは否定的な反応があったことを知ったと語っています。様々なメディアによる評価も様々で、IGNは5点、SFXは3点、Now PlayingはB+と、評価は大きく分かれています。2009年と2014年のDoctor Who Magazineの読者投票では、全エピソードの中でも下位にランクインする結果となりました。

オリンピックとドクターのつながり

興味深いのは、現実の2012年ロンドンオリンピックで、後のドクター役であるマット・スミスが聖火ランナーを務めたことです。この事実は、ドラマの舞台設定と現実世界が奇妙な形で交錯したことを示しており、多くのファンに衝撃を与えました。

まとめ

「危険なお絵描き」は、低予算ながらも、少女の不思議な能力とオリンピックという舞台設定を巧みに組み合わせたエピソードです。しかし、その評価は高くも低くも、賛否両論が入り混じった複雑なものでした。子供たちをターゲットにしたとされる本作は、大人たちの期待とは異なる方向性を提示したと言えるでしょう。このエピソードは、ドクター・フーシリーズの中でも特異な存在であり、その制作背景や評価を知ることで、より深く作品を楽しむことができるでしょう。

もう一度検索