原爆体験記 (広島市)

原爆体験記について

「原爆体験記」は、1965年7月に広島市原爆体験記刊行会によって編纂された書籍で、朝日新聞社から初版が発行されました。この本は、戦後最初期に編纂された原爆体験記の一つであり、長い間公にされることがなかったため、その重要性は特に際立っています。これは、占領軍によって配布が禁止されたためであり、公刊されるまでには多くの時間を要しました。

概要

1965年に初めて一般に公刊されたこの書籍には、29篇の異なる体験記が収められています。その内容は、戦時中の被爆状況を生々しく描写しており、その大半が被爆当時の具体的な体験に基づいています。この文集の特徴は、著者たちが様々な職業に就いていた市民であり、多くの世代から集められたことです。特に、編纂当時に8歳であった小学生から、年齢不詳の執筆者まで多岐にわたります。29篇の体験記の中で、男性によるものが21篇、女性によるものが8篇と幅広い視点が尽くされています。

また、本書に収められている体験記は、子どもたちに主に焦点を当てた文集に対し、一般市民の視点から描かれることが多いため、さまざまな職種や被爆時の居場所も記録されています。例えば、中心の燃料会館近くで被爆した経験を持つ47歳の男性事務員の手記など、多様性に富んだ内容となっています。こうした体験記は、反戦や平和のメッセージが薄められている一方、当時の生々しい状況をリポートしている点が、特に重要視されています。

刊行の経緯

広島市は、1950年に浜井信三市長の提案により市民の原爆被害に関する体験記を集めるプロジェクトを開始し、手記を広く募集しました。結果として164篇の応募があり、その中から18篇を選定して小冊子が企画されました。しかし、この文集は占領軍による「反米的」との理由で配布停止処分を受け、広島市役所の倉庫に閉じ込められることとなります。

1965年になると、朝日新聞社の報道によりこの文集が明らかになり、浜井市長の許可を得て初めて公表される運びとなりました。この際、既存の18篇に加えて新たに11篇が追加され、29篇に整えられました。出版後には、執筆者の追跡調査も行われ、24名の著者の身元が確認されましたが、一部の執筆者は消息不明のままであったため、仮名での掲載がなされました。

その後、本書は1975年に改版され、現在も多くの版が出版されています。また、原本は広島市によって保存され、広島大学名誉教授で被爆者でもある葉佐井博巳により、2009年から2年間をかけて電子データとして復元されました。こうした取り組みを通じて、原爆体験記はただの記録ではなく、歴史的重要な証言であり続けています。

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