受精

受精（じゅせい、英: Fertilization）

受精は、雄の生殖細胞が雌の卵細胞に入り込み、細胞分裂によって新たな個体が成長できる状態になる過程を指します。一般的には、動物におけるこのプロセスを指すことが多いです。

受精の基本的なプロセス

受精の過程では、まず精子が卵の表面に引き寄せられます。水中では、精子は素早く卵に集まります。1つの精子が卵に侵入すると、その部分を中心に透明な膜（受精膜）が形成され、他の精子が卵に入るのを防ぎます。通常、卵に侵入できるのは1つの精子のみであり、複数の精子が侵入した場合でも、卵核と融合できるのは1つだけです。残りの精子は行き場を失い、卵に吸収されることもあります。この受精膜の役割により、通常は1回の受精で1つの卵が受精します。

受精が完了すると、卵割が開始され、多くの場合はすぐに細胞分裂が始まります。ウニのような場合では、受精膜が胚を覆う膜となり、その膜から脱出することが孵化と呼ばれます。

受精が起こる瞬間は遺伝学的には精核と卵核の融合と捉えられます。しかし、発生学的には新しい個体の核が形成される瞬間として考えられ、場合によっては精子の接触そのものを受精の瞬間と見なすこともあります。化学的な刺激で発生が始まる場合もあるため、精子の役割は卵の発生を引き起こす引き金とも捉えられています。

受精の形式

動物の受精は、体外受精と体内受精に大別されます。体外受精は、個体が外に卵や精子を放出し、そこで受精が行われるのに対し、体内受精は卵が体内で精子と結びつく過程です。ヒトでは通常、1つの卵子に対して1つの精子が侵入して受精が成立しますが、鳥類では複数の精子が一つの卵子を受精させることが必要です。これは胚の成育に必要な物質が多いためですが、遺伝情報自体は1個体の精子の分で足るとされています。

ヒトにおける受精

ヒトの受精プロセスでは、射精時に放出される精子の数は通常1億から4億程度ですが、腟内に射精された精子の99%は子宮頸部に至る前に死滅します。子宮に到達するのは数千から数十万の精子で、卵子の目前に到達するのは数十から数百程度と言われています。受精は、排卵に伴うタイミングに依存し、卵子は排卵後、数時間から24時間以内に受精しなければ退化してしまいます。精子の受精能力は、数時間から最長で7日間持続し、これにより、排卵前後8日間が受精可能な期間となります。

排卵のタイミングは個体差が大きく、生活習慣やストレスなどによって変動しやすいため、妊娠可能な期間の予測は難しいです。

植物における受精

種子植物では、受精と受粉を混同することがありますが、受粉は花粉が雌蘂の柱頭に着くことを指します。その後、花粉から伸びた花粉管が卵細胞に到達し、精核との融合により受精が成立します。このプロセスは助細胞の働きによって導かれ、名古屋大学の研究者らによって、特定のタンパク質が花粉管の誘引に関与することが明らかにされました。また、被子植物には重複受精と呼ばれる独自の受精様式が存在します。

その他の情報

双生児が一つの卵に二つの精子が入ったために生じるとの俗説がありますが、これは誤りです。受精のメカニズムの理解は、動植物の繁殖生理における基本的な鍵を握っています。

もう一度検索