古事記伝

古事記伝（こじきでん）

『古事記伝』は、日本の古典文学『古事記』に対する詳細な註釈書であり、江戸時代の国学者本居宣長によって執筆されました。この作品は、全44巻にわたる膨大なもので、宣長の考え方や時代背景を知る上で非常に重要な文献となっています。

執筆の背景

宣長は1764年（明和元年）にこの著作に着手し、1798年（寛政10年）に完成しました。宣長は1756年に初めて『古事記』を手にし、この古典に深い興味を抱くようになりました。彼は賀茂真淵からの影響を受け、特に1763年に松坂で真淵から直接教えを受けた後、『古事記』研究への情熱を燃やしました。36年間に渡る研究の成果として、『古事記伝』は生まれました。

構成と内容

『古事記伝』は、文献学的手法を駆使して『古事記』の写本を比較し、その異同を厳密に校訂することによって構成されています。また、古語の訓読みを付加し、その後に詳細な註釈を施しているのが特長です。該書は、巻1が総論を含む「直毘霊」、巻2では序文の注釈や神統譜があり、巻3から44までは本文に関する註釈が行われています。

宣長は、『古事記』の中に古代人の生き方や考え方に流れる一貫した精神性、すなわち「道」を見出し、この「道」を強調することで、日本の神代を尊ぶ国学の確立に寄与しました。

受容と評価

宣長の影響により、それまであまり評価されていなかった『古事記』は、次第にその重要性が認識されるようになりました。彼は『古事記』を真実であると信じ、「やまとごころ」の重要性を、儒教的な「からごころ」に対抗する形で訴えました。この結果、『古事記』の定本の一つとして現在も用いられている『訂正古訓古事記』が1803年に弟子によって出版されました。

言語研究と文学研究への影響

宣長は国語学史においても重要な位置を占めており、上代特殊仮名遣の発見者とされています。彼のこの業績は後に多くの研究者によって継承され、歌の解釈や語源に関する研究にも影響を与えることとなりました。21世紀においても『古事記伝』は基本書として位置づけられ続け、その後の研究においても宣長の考え方を踏襲したものが多く見受けられます。

一方で、宣長の考えに対する批判も存在し、一部の contemporaries からはその神話解釈について異論が挙げられました。また、彼の解釈をさらに発展させるべく、門弟たちが独自の視点を持ち込むことも多々ありました。

結論

本居宣長の『古事記伝』は、日本の古典文学と国語学、さらには歴史学においても重要な役割を果たした作品です。それは、国文学の基礎として今なお多くの研究者によって参照され続け、その視点は現在も新たな解釈や研究に影響を与えています。

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