可変ピッチプロペラ (航空)

可変ピッチプロペラとは

航空工学において、可変ピッチプロペラとは、プロペラのブレード（羽根）の角度を飛行中に調整できるプロペラのことです。これにより、航空機は様々な速度や高度で効率的に飛行することが可能になります。

可変ピッチプロペラの必要性

固定ピッチプロペラでは、離陸時、巡航時、着陸時など、異なる飛行状況において最適な性能を発揮することができません。例えば、離陸時には大きな推力が必要ですが、巡航時には燃費効率が求められます。可変ピッチプロペラは、これらの要求に対応するために開発されました。

可変ピッチプロペラの仕組み

プロペラのブレードの角度（ピッチ角）を調整することで、プロペラが1回転あたりに移動させる空気の量を調整できます。ピッチ角を小さくすると、プロペラは高速回転に適した状態になり、大きな推力を得ることができます。逆に、ピッチ角を大きくすると、プロペラは低速回転でも効率的に推力を生み出すことができます。

可変ピッチプロペラの主な種類

可変ピッチプロペラには、主に以下の2種類があります。

手動可変ピッチプロペラ

パイロットが手動でブレードのピッチ角を調整するプロペラです。初期の可変ピッチプロペラはこのタイプでした。

定速プロペラ（恒速プロペラ）

パイロットが設定したエンジン回転数を維持するように、ブレードピッチが自動的に調整されるプロペラです。これにより、航空機は常に最適なエンジン回転数で飛行することができます。定速プロペラには、プロペラ・ガバナー（定速装置）と呼ばれる制御装置が使用されます。

また、可変ピッチプロペラの中には、ピッチ角を負の値に設定できるリバーシブルプロペラもあります。これにより、プロペラの回転方向を変えることなく逆推力を発生させ、制動や地上での後退に使用できます。

可変ピッチプロペラの動作原理

小仰角時

プロペラのピッチ角が小さい場合、1回転あたりに動かす空気の量が少ないため、トルクは小さく、回転数は高くなります。これは、自動車のローギアの動作に似ています。

大仰角時

プロペラのピッチ角が大きい場合、1回転あたりに動かす空気の量が多いため、回転数を低く抑えても推力を得ることができます。これは、自動車のハイギアの動作に似ています。

フェザリング

可変ピッチプロペラのもう一つの重要な機能は、フェザリングです。これは、プロペラのブレードの向きを、前縁が進行方向を向くように回転させることです。多発機の場合、エンジンが故障した際にプロペラをフェザリングすることで、抗力を減らし、残りのエンジンで飛行を継続することができます。単発機の場合、フェザリングは滑空時の抗力を減らし、不時着の際の選択肢を増やすことができます。

可変ピッチプロペラの機構

ピッチ角の変更には、主に以下の3つの方式が用いられます。

1. 油圧式

エンジンの油圧を利用してピッチ角を変更する方式です。商用プロペラ機や一部の軽飛行機で広く使用されています。

2. 遠心力錘式

遠心力の作用を利用してピッチ角を変更する方式です。初期の定速プロペラに用いられました。

3. 電気制御式

電気モーターやアクチュエーターを利用してピッチ角を変更する方式です。超軽量動力機などで使用されることがあります。

定速プロペラ（恒速プロペラ）

定速プロペラは、常に最適なエンジン回転数を維持するようにブレードピッチを自動で調整します。この制御は、定速装置（CSU）またはプロペラ調速機と呼ばれる装置によって行われます。CSUは、飛行速度や高度に関わらず、エンジンを最も効率的な回転数で動作させることができ、自動車の無段変速機に相当するとも言えます。

定速プロペラの動作原理

多くのCSUは油圧を利用してプロペラのピッチを制御しています。単発機の場合、一般的に油圧を用いてピッチを大きくします。CSUが故障すると、プロペラは自動的にピッチが小さくなり、低速での操縦性を確保します。一方、多発機では、油圧を使ってピッチを小さくするのが一般的です。CSUが故障すると、プロペラは自動的にフェザリング状態になり、抗力を減らして、正常なエンジンによる飛行継続を助けます。

定速プロペラの歴史

初期の航空機では、着陸時にのみ調整可能なプロペラが使用されていました。その後、1919年にL.E.ベインズが最初の自動可変ピッチプロペラの特許を取得、1921年にはフランスのピエール・ルヴァッスールが可変ピッチプロペラを出品しました。1924年にはヘンリー・セルビー・ヘル＝ショー博士とT.E.ビーチャムが油圧作動可変ピッチプロペラの特許を取得しました。

1932年、フランスのラチェ社が可変ピッチプロペラを発表し、1934年にはウォルター・S・フーヴァーが可変ピッチプロペラの特許を米国で登録しています。

油圧作動のピッチ制御プロペラは、フランク・W・コールドウェルが発明し、1933年のコリアー・トロフィーを受賞しました。また、デ・ハビランド社がハミルトンプロペラの製造権を取得したり、ロールス・ロイスとブリストル飛行機がロートル社を設立したりと、ピッチ制御プロペラは発展を遂げました。

脚注

可変ピッチプロペラは、航空機の性能向上に不可欠な技術であり、その開発は航空史における重要な進歩の一つです。