可変翼

可変翼（Variable Geometry Wing）

可変翼とは、航空機に搭載される特殊な翼の構造を指し、飛行中にその形状が変化することで航空力学的性能を最適化できます。これにより、低速飛行時や離着陸時には高い揚力を得ることができ、高速飛行時には空気抵抗を抑えることができます。可変翼は特に主翼に見られ、後退角を調整できるものが一般的ですが、翼端を折り下げてアスペクト比を調整する方式も存在します。可変翼を装備している航空機は「可変翼機」と呼ばれ、英語では「swing-wing」や「Variable Geometry wing」と表現されます。

可変翼の仕組みと利点

通常の航空機では主翼の形状を変えることはできませんが、可変翼機では特殊な機構を使って飛行中に翼の角度や幅を変更します。これにより、異なる速度領域においても理想的な性能を発揮することが可能です。初期の可変翼機では、胴体内にレールを設けて翼根を移動させる方式が採用されましたが、重さや構造の複雑さから実用化には至りませんでした。現在では、ピボットを用いて主翼の先端を回転させる方式が主流です。

可変翼の利点は、特に航空機の運動性能をあらゆる速度域で向上させる点にあります。低速時には翼を広げて揚力を向上させ、高速時には翼を後退させることで抗力を減少させることができます。これにより、優れた操縦性能と経済性を両立させることが可能でしたが、可変翼機の複雑な構造はコストと重量の増加をもたらし、民間機での実用化例はほとんどありません。

歴史的背景

可変翼の研究は、第二次世界大戦中のナチス・ドイツに起源を持ちます。Me P.1101と呼ばれるジェット戦闘機の技術が開発されましたが、完成には至らず、戦後この技術を引き継いでアメリカはX-5を開発しました。X-5は1951年に初飛行し、飛行中に後退角を変更できる性能を持っていました。ソ連でも独自の可変翼機が研究されましたが、初の実用機はアメリカのF-111で、1964年に初飛行しました。F-111はコンピュータによる制御を用いることで操縦特性を改善し、可変翼機としての地位を確立しました。

その後、アメリカのF-14やB-1、ソ連のSu-17、MiG-23、MiG-27など、可変翼を持つ多くの軍用機が開発されました。特にF-14は、コンピュータ制御により旋回性能と高速性能を両立させる点で優れていました。

近年の動向と未来

しかし、可変翼の採用は1960年代後半から1970年代にかけて一時的な流行に留まりました。その理由には、構造の複雑さから生じた重量増加やコスト上昇、航空機への要求の変化が挙げられます。また、エンジンの性能向上により、単純な翼形状でも十分な速度性能を得られるようになったため、可変翼の必要性は低下しました。さらに、ステルス性の向上が求められる中で、可変翼の採用は難しくなりました。

現在、可変翼の研究は続けられていますが、実用化には至っていません。新しい航空機形状や技術の進展とともに、可変翼の役割や重要性が再評価される日が来るかもしれません。

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